会員研修会 斎藤亮先生 会員研修会報告便り

このたびの会員研修会では、岩手医科大学より講師としてご活躍の齋藤亮先生をお招きし、小児の発達を考慮した機能と形態回復について、お話いただきました。特に発達につきましては、胎生期から授乳・離乳、摂食・嚥下やかみ合わせ(咬合)・構音の獲得まで、各ステージにおけるポイントを押さえつつ、歯科医療関係者の指導や介入のあり方を提起するもので、改めて小児歯科臨床の奥深さと面白さを認識した参加者も多かったのではないでしょうか。

以下に内容をかいつまんで、まとめました。

■最近の小児の課題 
最近の小児におけるお口の機能の課題として、かまない、かめない、飲み込めない、口に余る、口いっぱいにつめこむ、水で流し込む、食器をうまく使えない、食べ物の好き嫌い、偏食などがあります。これらの背景には、むし歯やかみ合わせ、味付けが関係していることがありますが、もうひとつ重要な視点として機能的問題があります。今日は、小児の顎口腔について形態と機能の関係について考えてみたいと思います。 

小児歯科臨床では、形態的機能的障害があると、どこが障害されているのか(形態→う蝕・不正歯列・不正咬合/機能→動き・力の制御)、いつ障害されたのか(形態→歯の萌出期・咬合完成期/機能→離乳期・乳歯列期)、どの程度障害されたのか(可逆・不可逆)、形態を治せば機能も治るのか、機能を治せば形態も治るのか?といったことの把握が重要となります。特に形態に異常がない場合で機能に異常がある場合には、どのような対応が必要となるのでしょうか? 

■機能獲得の原則とは 
機能獲得には、よく発達関係の教科書に記載される、以下のような原則があります。 
☆相互作用:赤ちゃんによるはたらきかけと親による適切な刺激、この循環が発達をもたらす。たとえば、親は2本足で歩いている、という刺激がないと歩けるようにはならない。 
☆最適期(適時性):内発的はたらきかけ。1.5-2歳が発達には重要な時期であり、この時期に言語や食器の使い方を覚えないと、成長してから獲得するのは難しい。 
☆一定の発現順序(順序性):粗大運動(首据わり→お座り→つかまり立ち→つたい歩き→一人歩き)の発現には一定の順序がある。咀嚼能力の場合は「唇食べ」→「舌食べ」→「歯ぐき食べ」→「乳歯食べ」 
☆予行性(レディネス):次に進む用意ができていないと、次に進まない 
☆直線的ではない:停滞したり、後戻りしたり、ある日突然進んだりする。 
☆個人差が大きい:人間の発達の個人差は大きい。家庭などの育児環境や、食べるための器官の成長などが関わっている。 
☆機能獲得には練習が不可欠であり、機能は順序だった練習により獲得される。最初から複雑な機能を営むことはできない。 

■機能獲得は胎生期から始まっている 
A Child is Born (Lennart Nilsson、邦題「生まれる」) では、胎内の観察から、胎生期でも赤ちゃんは指しゃぶりをしており、指を乳首にみたてて指しゃぶりの練習を、羊水を飲み込んで嚥下の練習をしている場面が、見られます。妊娠中に臨月を待つことなく取り上げられた新生児の観察から、月経齢8週間には口唇への刺激に対する(頭部体幹の屈曲といった)反応が備わっていることがわかっており、月経年齢24-29週には口唇への刺激に対し吸啜反応を示すことがわかっています。 

■授乳・哺乳から咀嚼機能の獲得へ 
舌・口唇・顎の動きの発達は、この3要素の一体動作による吸啜から、分離動作による咬断・咀嚼・圧塊運動・嚥下といった複雑な動きの獲得へ進みます。ここで重要なのが、原始反射(探索反射・口唇反射・吸啜反射・咬反射)についての理解であり、原始反射が消失していなければ、月齢6ヶ月といえども、離乳の準備ができているとは判断できません。 
☆離乳初期5-6ヶ月ころ(離乳食開始):上唇の形変わらず、下唇が内側に入る。口角あまり動かない。口唇閉じて飲み込む。舌の前後運動にあごの連動運動。 
☆離乳中期7-8ヶ月ころ(乳歯萌出):上下唇がしっかり閉じて薄く見える。左右の口角が同時に伸縮する。数回もぐもぐして舌で押しつぶし咀嚼する。→この時期に硬いものを与えると、丸のみせざるを得ず、丸のみ習慣が形成されます。 
☆離乳後期9-11ヶ月ころ(上下顎の咬合):上下唇がねじれながら協調する。咀嚼側の口角が縮む。舌の左右運動。 

■小児期に見られる発音障害と獲得 
発音・構音獲得には臨界期があります。舌小帯強直症や反対咬合は、機会を逃さずに適切に対応しなければ、後から構音獲得するのは、困難です。 

■まとめ 
以上のように、形態と機能は表裏一体ではなく、機能獲得には練習と時間が必要です。対応がおくれると機能障害は大きくなり、小児と保護者の苦労は無用に大きくなります。小児専門医は形態と機能のバランスに注意し、適切なアドバイスをしましょう。

ご講演中の斎藤先生

質疑応答中の斎藤先生 

南出保 記す