定時総会時記念講演会のご報告
平成25年4月20日、札幌エルプラザ3階ホールにて、神奈川歯科大学大学院口腔衛生学講座荒川浩久教授をお招きして、第30回北海道子供の歯を守る会定時総会時記念講演会が開かれましたのでご報告いたします。
荒川教授には「各ライフステージにおける口腔管理の進め方〜歯科口腔保健法の推進に関する法律〜」と題しまして、歯科口腔保健の推進に関する法律の解説ならびに新しい様式に生まれ変わった母子健康手帳について、そして口腔管理の実際に関して、ご講演いただきました。当日は、総会出席者は本会会員38名、講演会出席者は本会会員を含む62名にご参加いただき、講演後には、活発な質疑応答も行われ、盛会のうちに終了いたしました。
以下に内容をご報告させていただきます。
本日は、各ライフステージにおける口腔管理の進め方と題してお話しますが、最も大切なのはフッ化物の応用です。
平成23年8月2日、第177会国会で可決・成立した「歯科口腔保健の推進に関する法律」では、(目的において)「口腔の健康が健康で質の高い生活を営む上で基礎的かつ重要な役割を果たしている」と明記されており、そのうえで(基本理念として)「乳幼児期から高齢期までのそれぞれの時期に於ける口腔とその機能の状態及び歯科疾患の特性に応じて、適切かつ効果的に歯科口腔保健を推進すること」、このため(歯科医師等の責務として)「国及び地方公共団体が歯科口腔保健の推進に関して講ずる施策に協力するよう努めるものとする」とされています。さらに(歯科疾患の予防のための措置等において)「国及び地方公共団体は、個人的に又は公衆衛生の見地から行う歯科疾患の効果的な予防のための措置その他の歯科口腔保健のための措置に関する施策を講じるものとする」となっており、実際には平成20年度から現在28都道府県において成立している口腔保健法・条例を後押しする内容を含んでいます。
この歯科口腔保健の推進に関する法律に基づき定められた「歯科口腔保健の推進に関する基本事項」(平成24年7月23日公表)では、ライフステージごとの特性を踏まえ乳幼児期、学童期、成人期(妊産婦である期間を含む。)、高齢期に分けて目標・計画を設定していますが、この全てのライフステージの計画に明記されているのがフッ化物の応用です。また平成24年度に改定された母子健康手帳でも、うがいやむし歯予防の有効な手段としてフッ化物の利用について記載されました。平成25年2月には8020推進財団が「歯は一生のパートナー むし歯0作戦!」というリーフレットを作成しましたが、このリーフレットでもやはりフッ化物応用について明記されており、フッ化物配合歯磨剤の正しい使い方、フッ化物洗口、フッ化物歯面塗布、フロリデーションについての解説があります。
昨年度に開かれた第61回日本口腔衛生学会・総会のメインテーマとして“プラークコントロールマイニング”を掲げました。このプラークコントロールマイニングとはプラークの除去、形成抑制、病原性のコントロールからなりますが、この病原性のコントロールはプラークを除去しきれない可能性を認めたうえで、病原性をコントロールしようという概念ですが、ここでもやはりフッ化物の応用をかかすことはできません。
ライフステージごとの口腔管理
乳児期の口腔保健管理では、ガーゼなどにより口腔・歯面を清拭する。また低濃度フッ化物液による歯磨き、あるいは泡状フッ化物配合歯磨剤(Check-up form)の利用が、寝かせ磨きに適している。
幼児期の口腔管理では、擦りつける程度の少量のフッ化物配合歯磨剤でみがく。小さな子どもでも受け入れられる低香味の製剤を選択する。3歳以降では自身による歯磨きの練習が必要になる。自分で磨くシミュレーションのためには、背後からフッ化物配合歯磨剤を利用して磨くとよい。またフッ化物歯面塗布は「トレー法」に準じ、塗布時間は4分間とするのが望ましい。
4歳からはフッ化物洗口もできるようになる。厚生労働省フッ化物洗口ガイドラインは、フッ化物洗口について、4歳から老人まで適応されるが、とくに4歳から14歳までの継続実施が望ましい、他のフッ化物局所応用と併用実施しても安全上問題ないし、アレルギーや骨折、ガンなどとの関連もない、としている。
学齢期の口腔保健管理では、小学生は混合歯列になり、う蝕感受性が高く、中学生では歯肉炎の急増や歯周炎の発生する時期であることから、フッ化物配合歯磨剤を利用した歯磨き・フッ化物洗口の継続とともに、デンタルフロスの併用が薦められる。日本人は1日の歯みがき回数は多いがヘッドの小さいブラシを好むため、歯磨剤使用量が少なくなることが問題点として挙げられる。効果的なフッ化物配合歯磨剤の使用法として、0.5g以上の使用、15mlによる3〜4秒の洗口を1回、1日2回以上、ブラッシング中の吐き出しは控える、継続使用すること、がある。
成人期の口腔保健管理では、隣接面や歯頚部からのう蝕発生と歯周炎が問題となる。
妊娠期における口腔管理の進め方では、女性ホルモンの関係から、歯肉炎を起こす菌が増加し、プラーク付着は少量でも歯周病のリスクが高まる。妊婦の歯周病は早産リスクが7.5倍高く、低体重児出産のリスクを高める可能性があるために注意を要する。
超高齢社会を迎えた日本における歯科問題には、根面う蝕があり、その処置の難しさから予防が重要である。
現在のフッ化物応用のグローバルスタンダードは、すべてのう蝕リスクのすべての年齢の人々に、水道水フロリデーションをはじめとするフッ化物全身応用と、1日2回以上のフッ化物配合歯磨剤の使用、う蝕リスクに応じたフッ化物歯面塗布とフッ化物洗口の追加である。日本では、フッ化物の全身応用が実施されていないので、歯の萌出とともに1日2回のフッ化物配合歯磨剤の利用、1歳半からのフッ化物歯面塗布、4歳からのフッ化物洗口を組み合わせる。(南出保)