会員研修会のご報告
平成25年7月20日、北海道歯科医師会館2階視聴覚室にて、滋賀県南部健康福祉事務所(草津保健所)主任技師若栗真太郎先生をお招きして、会員研修会が開催されましたのでご報告いたします。
若栗先生には「正しく理解して、伝えたい!ミュータンス菌の垂直感染 〜食器の共用、口移しを防ぐことでう蝕は予防できるのか〜」と題しまして、ミュータンス菌の垂直に関しましての知見の変遷と最新の知見につきまして、ご講演いただきました。当日は、出席者は本会会員を含む38名にご参加いただき、講演後には、活発な質疑応答も行われ、盛会のうちに終了いたしました。
以下に内容をご報告させていただきます。
講演では現時点での垂直感染予防に関する誤解を紐解くにあたり、19世紀に遡り1960年代Keysの研究から新生児の無菌的口腔にS.mutans「いつ」・「どこから」感染するかの研究が始まったことを示し、年代毎に齲蝕が感染症であること、生活習慣病と捉えられるようになったきっかけの研究の一部を抜粋され、母子垂直感染研究を裏付ける研究を紹介された。それらの研究から「食器の共有と齲蝕との関連なし」「食器の共有と口腔内のS.mutans量との関連なし」「食器の共有とS.mutans定着との関連あり」「食器の共有による齲蝕発生への影響あり」「キスの習慣とS.mutans定着との関連あり」と示唆された。そして「垂直感染予防行動と齲蝕発生」の関係が明らかになっていない状況から2011年若栗先生と昨年度健康格差について講演したいただいた相田先生との研究タイトル『保護者の垂直感染予防行動と3歳児の齲蝕との関連』が報告され「垂直感染予防行動と齲蝕発生とは関連ない」という新たな知見が報告された。
これらの知見から、何をすれば、あるいは何をしなければ母子垂直感染を防ぐことができるのかは、明らかにはならなかったが【「母子垂直感染」=「子供の齲蝕が発生」とはいえない】、【「垂直感染予防行動」=「子供の齲蝕予防」とはいえない】と結論づけられた。
確かに齲蝕は母子間での垂直感染が原因の1つと考えるが、齲蝕を防ぐにはミュータンス菌等の齲蝕病原性菌量のコントロールと同様に、食生活等の生活習慣のコントロールが大切である。つまり、齲蝕病原性菌や歯周病原性菌等による生物学的な要因だけではなく、食生活や口腔衛生習慣等の生活習慣や行動による要因を同時に考え、母親に生活の中で知恵を絞り、工夫してもらうことがより賢明であろう。
私毎ではありますが1995年に長男を生んでいます。母子歯科保健指導が話題となっている時期だったので、齲蝕経験歯数12本の私は、母子垂直感染を防ぐ為に乳歯崩出8カ月頃から離乳食の温度や柔らかさを口腔で確かめることができない事やスプーンや食器の共有を控えるようにする事、咳・くしゃみにも気をつける等々普段の生活行動が限られてくることへのイライラ感や、祖父母が我が子にスキンシップする行為をハラハラしながらその限界を感じ、カイスの輪を基本としステファンカーブを思い浮かべ仕上げ磨きを徹底しようと誓ったことを覚えています。
先生は専門家の責務としてこまめなエビデンスのアップデートを心がけ、新しい情報に基づく、自分の保健指導、治療方針を準備する。そして行政の立場から一般の人々が解釈しえない情報を吟味し、相手の予防や治療の選択技を広げたうえで最良と考える指導、治療を提示し、相手に判りやすく伝えることであるとまとめられた。まだ評価の定まらない新しい研究結果や科学的議論が報道される昨今、我が体験を振り返り、謙虚に研鑽する必要があると感じた。(角田裕子)