第84回会員研修会のご報告

【第84回研修会報告】 
 「子供の健やかな咬合育成を皆さんで考えてみましょう。」 
 講 師:帯広市 船津歯科 船津三四郎先生 
 日 時:平成29年2月18日 
 会 場:北海道歯科医師会館 
 当日は、本会会員を含む31名にご参加いただき盛会のうちに終了いたしました。

船津先生のお話は昭和40年代の虫歯の洪水時代から始まりました。その頃、虫歯王国北海道の中でも特に十勝は一人あたりのDMFTが高かったため、先生は本州との格差を埋めるべく学校歯科保健のインフラ整備に奮闘されました。 

船津先生が掲げた整備の目標は 

①札幌方式と呼ばれる検診票(虫歯・要注意乳歯他に関して歯番を記入せず「あり」「なし」をチェックするだけのもの)を現在の3号様式に戻す事により統計処理を可能にする 
② 学校保健法に規定されているにもかかわらず帯広市には皆無であった学校保健委員会を設置する 
③養護教諭との定期的勉強会を開催 
④健診器具の整備(児童一人につき1本のミラーの確保と市教委で一括して洗浄) 
⑤十勝から虫歯予防推進指定校の推薦 

でありましたが、これらの事業を実施するために北教組の役員と2年間にわたる団交を重ねる事でやっと実現できたとの事です。学校保健に関わった人なら感じる事ですが、生徒の健康の為に良しと思った事でも現場の理解を得て改善を行うには大きな労力が必要となる場合が多いと思います。船津先生の情熱と行動力には感嘆を禁じえません。 

その後、これら事業を実施した甲斐があって帯広地区の子供達のう蝕は減少したのですが、それに反比例するかの如く子供達の口腔周囲環境に新たな問題が生じて来ている事に気が付き、以下の様な課題を立てられました。 

1.態癖のコントロール 

頬杖、舌壁、口呼吸や睡眠態癖(うつぶせ寝、手を顔に添えて横向き寝)などにより歯列不正、不正 咬合、顎関節症を起こすため態癖への指導が必要 

2.力のコントロール 

下顔面高の低いブレーキタイプの骨格系の子供達はその咬合力の強さで自ら咬合崩壊を招きやすいためTCH(歯列接触癖Tooth contacting habit)のコントロールにより予防を図る。生活環境の変化(ストレス社会化など)により安静位空隙をとれない人が多くなっており、食事時以外では上下の歯を接触させない様に指導が必要。「よく噛む事」「硬いものを積極的に食べる事」「噛みしめる事」これらは別の事。硬い食材が顎の成長に寄与するのはせいぜい思春期まで、ブレーキタイプは青年期以降あっという間に咬合崩壊を起こす事があるので好んで硬い食材を食べる人は気を付ける。 

3.口呼吸を鼻呼吸へ 

口呼吸は歯科的問題点(虫歯の増加、歯周病の悪化、異常咬合、歯列不正ほか)、全身的な影響(扁桃肥大、睡眠時無呼吸症候群・誤嚥性肺炎・アレルギーの誘発ほか)があるため鼻呼吸に改善する。鼻呼吸は細菌・ウィルスの侵入を防ぐフィルター(鼻毛、線毛、扁桃リンパ組織、空気の加湿)があるのが口呼吸との違い。船津先生は鼻呼吸への改善方法として半信半疑ながら「あいうべ体操」(今井一彰先生考案)を取り入れたところ、自身の患者さんでその効果を実感した。 

4.位置異常歯、埋伏歯、過剰歯、先欠歯の諸問題をできるだけ歯科検診時に早期発見、受診勧告する6歳臼歯の異所萌出(第2乳臼歯の遠心に引っ掛って萌出障害を呈する状態)、移転歯(転移歯とは違って順番が入れ替わって萌出した状態、特に前歯部移転歯は隣接歯の歯根吸収を起こすことがあるので早期発見とCT撮影が有効、検診時に前歯部歯根相当部の怪しいふくらみに注意、開窓した場合は保険算定可(萌出困難歯開窓術2820点))、水平埋伏歯ではスペースを作ることで自然に萌出したケースもあった、逆生埋伏歯では下顎下縁の皮質骨を突き破ったケースがあったのでパノラマ写真において歯冠の方向を見ることが重要。6歯以上の非症候性部分無歯症の矯正治療は健康保険適用となるが治療にあたっては「自立支援法指定医療機関」「外科矯正施設基準認可医療機関」に限られる。 

5.口腔内フローラ 

私たちは母親の胎内では無菌状態であったのだが、歯の生え始めた生後6ヶ月頃に保育者(主に母親)から虫歯菌(ミュータンス菌)が感染する。赤ちゃんにおしゃぶりを与える前に親がおしゃぶりを舐める事でその後の子供のアレルギー・湿疹・喘息が減少するという研究報告がある(スウェーデンHesselmar et al.)哺乳類が我が子を舐め回すのは親のフローラ(口腔内、腸内)を継承・伝授し免疫系を活性化するためと思われる。虫歯菌の感染を恐れスキンシップを制限するより、ミュータンス菌が定着・繁殖しない環境を整える事の方が虫歯予防効果が高い(ただし自分の口腔衛生管理ができている事が前提) 

今回の講演は多くの示唆を私に与えて下さいました。 

(文責:広報部 矢口)