第87回 会員研修会(シンポジウム)のご報告

平成30年6月30日(土)ANAクラウンプラザホテルにて第87回会員研修会が開催されました。「北海道のフッ化物洗口の今」~北海道歯・口腔の健康づくり8020推進条例制定9年を経過して~と題し以下の次第で行われました。予想を上回る(?)60名の参加者で会場は満席となりました。当日は会員だけではなく、札幌市議会議員、江別市議会議員、多くの行政担当者の皆様も参加して下さり、フッ化物洗口に対する関心の高さとともに、すでにフッ化物を実施している地区の会員の皆様からは、フッ化物洗口実施迄の思いと実績に基づく自信が語られ「熱い」研修会となりました。

満員の会場
パネルディスカッションの様子

基調講演1 「フッ化物洗口をする側とさせる側の問題点」 
    北海道医療大学歯学部教授 千葉逸朗 先生 
基調講演2 「北海道における小児むし歯予防対策について」 
      北海道保健福祉部 主任技師 高橋 収 先生 

パネルディスカッション 
      「フッ化物洗口を広めるための具体策!」 
   コーディネーター:北海道子供の歯を守る会 会長 安彦 良一 先生 
   パネリスト:千葉 逸朗 先生、高橋 収 先生、角谷 隆司 先生(北海道議会議員) 
         青木 秀志 先生(北海道歯科医師会常務理事) 

 
満員の会場 
 
パネルディスカッションの様子

角谷 隆司 先生
青木 秀志 先生(中央)

基調講演に続くシンポジウムでは、道議会議員の角谷先生から「北海道歯・口腔の健康づくり8020推進条例」制定当時の苦労話、北海道歯科医師会常務理事の青木先生からは道内のフッ素洗口推進に向けての現状と問題点について語っていただきました。 

 
角谷 隆司 先生 

 
青木 秀志 先生(中央)

基調講演1 フッ化物洗口をする側とさせる側の問題点 
      北海道医療大学歯学部 千葉 逸朗 
フッ化物洗口を普及させるための障壁となる事項について概説し、その打開策を提言した。 

フッ化物洗口を「させる」側(歯科医師、行政)の問題点: 
多くのエビデンスがあるにもかかわらず、歯科医師自身が知識不足や誤解があったり、関係者とコミュニケーションが取れず、日常の診療に明け暮れている例が見られる。また、行政側も反対派に遠慮しているのか、道の条例があるにもかかわらず動きが鈍い場合がある。幼稚園、保育園への普及だけで満足していないだろうか。6歳臼歯を守るためには、特に小学校への普及が喫緊の課題である。また、実施した結果を評価する場合、学校での歯科検診のデータがベースになるが、そのデータの信頼度が問題である。歯科検診の環境改善、歯科医師間のキャリブレーション、スタッフ教育、養護教諭との連携など、データの正確性を高めるような対策を行うべきである。 

洗口を「する」側(学校、家庭)の問題点: 
一方、学校側にも問題点がある。専門家の話に耳を傾けようとせず、「何でも反対」する場合がある。残念ながらそのような状況ではフッ素に関する知識の集積は期待できず、「知らない」ことによる恐怖が発生する。先生方も多忙であることは理解できるが、子供の健康にもっと関心を寄せるべきである。保護者は子供たちの健康を誰よりも願っていることを忘れてはならない。 

重要なポイント: 
しかしながら、家庭の置かれた環境(経済的状況、教育レベルなど)によって子供たちの口腔保健状況が異なることが明らかになってきている。歯科関係者は「地域の健康格差」について知るべきであり、フッ化物洗口がこのような状況を打破する有効な手段であることを自らアピールし、行政を動かし、トップダウンで推進することによって、子供たちが「努力しなくても健康を享受できる」社会システムを確立することが可能となる。 
幸い、今回のシンポジウムに札幌市議、江別市議の方々をはじめ多くの行政担当者が参加して下さり、今後のフッ化物洗口の普及のための大きな推進力となって頂けることを期待する。

基調講演2 北海道における小児のむし歯予防対策 
      北海道保健福祉部健康安全局地域保健課健康づくりグループ 主任技師 髙橋 収 

北海道と全国の歯科保健の状況について整理したうえで、北海道の歯科保健施策を説明した。 

北海道と全国の歯科保健の状況: 
むし歯が従前よりも減少していることは事実であるが、いまだに歯を失う主な原因の一つであり、北海道においては、全国よりもむし歯が多いことと地域間格差の存在が課題となっている。 
※道内で12歳児の永久歯1人平均むし歯数(DMFT)が最少の上川教育局管内(0.86本:H29)でも全国平均(0.82本:H29)より多いうえに、渡島・日高管内では2本を超えている。 

小児のむし歯予防対策: 
道では、平成21年6月公布・施行の「北海道歯・口腔の健康づくり8020推進条例」と、条例に基づき策定した「北海道歯科保健医療推進計画」の下、平成22年度から「フッ化物洗口普及事業」を展開した。この事業では、普及啓発支援としてリーフレット・ガイドブック・DVDの作成等を行い、導入促進支援としてモデル地域・施設指定~説明会・研修の実施及び研修で使用した器材・薬剤の提供を行った。平成25年度からは「フッ化物洗口普及支援事業」に継承している。各関係者の御尽力により、平成29年度末には174市町村まで増加したものの、自治体内の保育所・幼稚園等~中学校までの全施設で実施されている市町村は46に留まっており、フッ化物洗口を希望する家庭の子どもが切れ目なく参加できる体制の整備に向け、施設数の拡大に取り組む必要がある。 

近年、フッ化物洗口の効果に関する質問(道外のデータだけでなく道内のデータはあるか?最近のデータはあるか?)を受ける機会が増えた。道では、学識経験者等から構成される調査班を道内複数の市町村に派遣し、調査研究を行っている。一例として、中学生を対象に「小学校での洗口経験の有無」で比較したところ、中間評価ではあるが、経験群では非経験群と比較してDMFTが半減している等のデータが得られている。 

フッ化物洗口も含めて、むし歯を完全に予防する手段は存在しない。各手段の効果と限界を理解し、できる限り予防効果を高めることが肝要である。守る会会員、特に専門職の方々には、会の研修会等を通じて、常に最新の知見を得るよう努め、道民の皆様にお伝えくださるようお願い申し上げる。