シーラント

北海道大学大学院歯学研究科口腔健康科学講座 八若保孝教授


奥歯(臼歯)のかみ合う部分には、“みぞ(しわ)”があります。
この“みぞ”を小窩裂溝といいます(図1:矢印)。
この小窩裂溝は、奥歯における一番のむし歯の好発部位です。


小窩裂溝は、とても細く、いろいろな形態があります(図2)。


そのため、小さな細菌(むし歯をつくる細菌: 図3)は、この小窩裂溝にたやすく侵入することができます。


しかし、残念ながら歯ブラシの毛先が入るだけの幅はありません(図4)。 
このため、侵入した細菌を歯ブラシで除去することは、ほぼ不可能です。侵入した細菌は、だれにも邪魔されず、むし歯を作ることができるのです。


この小窩裂溝にできるむし歯を予防する目的で開発されたのが、シーラントです。“溝埋め”、“シール”などと説明されることが多く、現在、臨床で広く応用されています。


おおよその、術式は、 
①小窩裂溝の清掃(歯科用電動ブラシ、薬剤などを使用) 
②小窩裂溝の表面処理(薬剤) 
③処理された小窩裂溝へのシーラント材の流し込み(填塞) 
④硬化 
となります(図5、6)。 
多くの場合、唾液の排除のために、ラバーダム(ゴムのマスク)をします。

シーラントの効果

① 小窩裂溝を塞ぐため、細菌の侵入を防ぐ 
② 小窩裂溝を塞ぐため、歯ブラシがしやすい 
③ 小窩裂溝を塞ぐため、小窩裂溝内に細菌が残存したとしても、栄養(糖)がいきわたらない 
④ シーラント材からフッ素イオンが小窩裂溝へ移行する(歯質の強化):一部のシーラント材です。

・現在のシーラント材の大部分は、フッ素イオンを放出し、小窩裂溝へ移行させます。これにより、小窩裂溝の歯質が強化され、小窩裂溝に残存する細菌の活動を抑えます。・以上のことより、シーラントは、むし歯予防には非常に有効です。このことについて、多くの報告(論文)があります。


フッ化物洗口にシーラントの追加により、奥歯のむし歯がさらに減少

シーラントの注意事項

しかし、万能ではありません。小窩裂溝が埋められたとしても、その周囲に歯垢(多量の細菌)が付着していれば、周囲からむし歯になってしまいます。


シーラントは、かみ合う部位に使用されるため、かみ合う力で脱落したり、破折したり、磨耗したりします。それにより、シーラントの効果が落ちてしまいます。その状態を放置すると、残念ながらむし歯になってしまいます(図7)。 
シーラントを長持ちさせるには 
 ①歯科医院で、定期的に検査を受けること 
 ②丁寧に、隅々までよく歯ブラシをすること 
 ③フッ化物を利用すること

WHO/FDIによる評価

WHO(世界保健機関)FDI(国際歯科連盟)においても、フッ化物と並び、シーラントがむし歯予防に非常に有効であることが示されています。

米国予防医療研究班によるむし歯予防のガイドライン(1993年)

1993年「米国予防医療実践ガイドライン」でシーラセントによるむし歯予防法を「根拠が十分利用を支持する」と勧告の強さAの評価をしています。

表1 米国・予防医療研究班によるむし歯予防のガイドライン(1993年)

予防方法証拠の質勧告の強さ
フッ化物の全身応用
 フロリデーション
 フッ化物錠剤(6-16歳)

Ⅱ-1
A
フッ化物の局所応用
 フッ化物洗口
 フッ化物配合歯磨剤
 フッ化物歯面塗布
A
シーラント
適切に実施された無作為に割り当てられた比較対照臨床試験による根拠
A
利用を支持する
十分な根拠がある
個人的な歯科衛生
(フッ化物の配合されていない歯磨剤による歯磨きやフロスの利用)

臨床経験、症例報告などに基づく権威者の意見
C
不十分な根拠だが他の要素を考慮した応用勧告
定期歯科検診C

CDC(アメリカ防疫予防センター)2004年声明(口腔保健:むし歯、歯周疾患と口腔癌の予防の項目)

シーラントの使用の促進 

臼歯部の咬合面をプラステックで填塞するシーラントは、児童に対する安全で効果的なむし歯予防方法です。既に初発したむし歯を停止させるケースもあります。シーラントは、未処置むし歯のある子どものリスクを有意に減少させます。 

「ヘルシーピープル2010」では2010年までに子どもの50%がシーラントを持つように目標設定しています。 

CDCの研究者はいくつかの方策を評価し、経済的に恵まれない通学児にシーラント処置することがシーラント使用における格差を是正するための最も費用効果の高い方策であることを認めました。 

さらに地域予防のサービスに関する特別対策本部は、むし歯予防とコントロールの有効な方法として、スクールベースのシーラント・プログラムあるいは学校に関連したシーラント・プログラムを推奨します。