令和5年度 道民公開講座 8020歯っぴーフォーラム in 札幌 ~8020は子どもの笑顔から~ 開催報告

 令和5年4月22日(土)15時から、北海道建設会館において令和5年度の道民公開講座を開催いたしました。新型コロナウイルス感染症等への感染予防に配慮し、今回もYouTube Liveによるオンラインでの開催となりました。令和5年度は、国の次期「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」と、道の次期「歯科保健医療計画」を策定する年度です。そのような重要な時期に、国や道の歯科保健施策に関わる講師の方々から、これからの国民・道民の歯と口腔の健康づくりの在り方を示す羅針盤となるお話を聞くことができました。今回は総会からの会場内参加者22名、オンライン参加者(録画聴取者を含む)55名の参加を頂き開催されました。

講演1 北海道の歯科保健医療の現在地と未来への道しるべ

 講師:北海道保健福祉部健康安全局地域保健課 主任技師  永井伯弥 先生

(講演要旨)

1.北海道の歯科保健医療を取り巻く現状と課題

 小児のむし歯有病状況は経年的に改善してきており、幼児(3歳児)では全国平均とほぼ同じレベルとなり、学童期(12歳児)においても、全国平均とは少し差があるものの、こちらも減少しています。一方で、道内を圏域単位や市町村単位で見てみると、歴然とした差がある状況であり、地域格差の縮小が課題となっています。さらには、コロナ禍が生活習慣にも影響を及ぼしているのか、この1~2年間ほど、むし歯や歯肉炎の有病状況の悪化が見られる地域もあります。また、歯科医療人材に目を向けると、道内の歯科医師・歯科衛生士数(人口当たり)は、全国平均を上回っているものの地域偏在が大きく、特に歯科衛生士では顕著になっています。今後、高齢化の進展や都市部への人口集中、本州への人材流出が加速化することで、歯科医療提供体制の維持が困難になる地域が生じることも予想されます。

講演1  北海道保健福祉部健康安全局地域保健課 主任技師 永井伯弥 先生

 2.北海道のこれまでの取組と、これからの取組

 こうした現状と課題を踏まえると、道が目指す方向性は、地域での歯科保健医療提供体制の維持をはかりつつ、疾病予防強化モデルを構築することとなります。健康格差の縮小に向け、道ではポピュレーションアプローチとしてフッ化物洗口の普及を推進し、一定の効果を得られています。また、地域での医療を確保するために天売島・焼尻島への歯科診療班を派遣したり、市町村が開催する「地域ケア会議」に参加可能な歯科衛生士を育成する事業を行うなど、地域での歯科保健医療提供体制の維持に努めています。

 今後、道では「道民のヘルスケアDX推進事業」として、歯科に限らず健康づくり全般におけるデジタル技術を活用したビジネスモデルの変革と優位性の確立を目指しています。まだまだ企画段階であり、具体的な事業はこれからとなりますが、市町村に対しては、共通利用できるシステムの開発による業務の集約化・簡略化を図るとともに、個人に対しては、活動計やアプリ等の利用により健康データを収集・活用することで、一人ひとりに合ったサービスの提供に繋げていきます。今年度策定する次期計画には、取り組むべき課題とその対策を盛り込み、皆様といっしょに歯科保健施策を推進したいと考えています。

講演2 誰一人取り残さない歯・口腔の健康づくり対策

―歯科口腔保健の推進に関する基本的事項 次期プランに基づくアプローチ―

    講師:北海道医療大学歯学部保健衛生学分野 教授

     (前 国立保健医療科学院 国際協力研究部長)  三浦宏子 先生

(講演要旨)

 まず、次期「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」ですが、略称が「歯・口腔の健康づくりプラン」となりましたので、是非おぼえていただきたいと思います。永井先生の話にもありましたが、全体として小児のむし歯有病状況は改善していますが、依然として地域格差が存在している状況が続いています。道内では、中学校・高校の時期におけるむし歯有病者率、未処置歯保有者率が全国に比べてかなり高く、1次・2次予防の推進が大きな課題と言えます。

講演2 北海道医療大学歯学部保健衛生学分野 教授 三浦宏子 先生

 国の新しい歯・口腔保健対策「歯・口腔の健康づくりプラン」ですが、全体の工程は12年間となっており、中間評価や最終評価に必要なデータソースとなる歯科疾患実態調査は、令和6年から4年ごとに実施します。歯科口腔保健パーパス(Oral Health Purpose)として、全ての国民にとって健康で質の高い生活を営む基盤となる歯科口腔保健の実現を掲げています。その中でも①個人のライフコースに沿った歯・口腔の健康づくりを展開できる社会環境の整備②より実効性をもつ取組を推進するために適切なPDCA サイクルの実施を強調しています。

 取組の効率を上げるためには科学的根拠に基づく戦略が必要となることから、ロジックモデルを取り入れていきます。(ロジックモデル:最終的に目指す変化や効果(例:こどものむし歯の減少)に向けた道筋を「見える化」したもの。)ここで重要なことは、アウトカムだけでなく、インプット/ストラクチャー(例:フッ化物塗布に関する事業を実施している市町村の割合の増加)やアウトプット(例:15歳未満でフッ化物応用経験がある者の増加)に関する取組を組み合わせることにあります。結果だけでなく、途中の取組にも指標を取り入れることで、地域における計画づくりに芯が通ったものとなっていきます。各指標の目標値は、直線回帰(一部指標のみ曲線回帰)モデルにより推計した予測値を設定していますので、科学的根拠に基づいたものとなります。一方、地域において評価しづらい項目もあることから、地域のニーズに合った歯科保健施策を展開するために、大臣告示による指標に加えて通知による参考指標を設定しています。あくまで推計値ですが、道では一部指標において達成困難と予測される指標もありますので、さらなる対策について期待していますし、そのためには学術機関として協力をしていきたいと考えています。(報告:総務部 高橋)