世界の報告書

国連食糧農業機関/世界保健機関の共同報告書

WHOテクニカルレポートシリーズ916 
食事、栄養および慢性疾患予防 
WHO/FAOはフッ素を栄養素としている 
世界保健機関 ジュネーブ2003年

フッ化物の影響

 フッ化物は疑いもなく抗むし歯性物質である。飲料水のフッ化物とむし歯の関連が逆相関であることはよく知られている。フッ化物は小児のむし歯を20-40%減少させる。 
 むし歯に対するフッ化物利用の効果に関する対照研究が800以上行われ、フッ化物がむし歯に対して最も効果的な予防要因であることが示されている。

食事とむし歯の関連における根拠の強さ

根拠むし歯減少関連なしむし歯増加
確実な根拠フッ化物利用
(局所および全身)
デンプン摂取
(一部除く)
遊離糖質量
遊離糖質頻度
おそらく確実な根拠 硬いチーズ
砂糖を含有しないガム

新鮮な果物

可能性がある根拠 キシリトール
牛乳
食物繊維


低栄養
不十分な根拠 新鮮な果物

ドライフルーツ

WHO勧告(フッ化物利用に関して)

 現在栄養に関する過度期にある多くの国は、適切にフッ化物を利用していない。 
 例えば、安価な歯磨剤や水、食塩、牛乳などの適切な方法を介して十分なフッ化物利用を促進すべきである。 

 各々の国に応じたフッ化物利用の計画と実行は、政府保健当局の責任である。 
 また、その他地域で選択できるフッ化物利用計画の実施と結果の研究を奨励すべきである。

以下全文  東北大学医学部(現公共政策大学院) 坪野吉孝教授翻訳

5.6 歯科疾患予防の勧告目次 

5.6.1 背景 
5.6.2 傾向 
5.6.3 食事および疾患 
5.6.4 根拠の強度 
5.6.5 疾患別勧告 

略語 以下の略語を本報告書に使用している。

ACC国連調整管理委員会
AIDS後天性免疫不全症候群
BMI体格指数
CARMEN欧州各国における炭水化物管理
CHD冠動脈疾患
CVD心血管疾患
DALY障害調整生存年
DASH高血圧予防の食事法
DEXA二重エネルギーX線吸収法
DHAドコサヘキサエン酸
dmfむし歯未処置、喪失、処置乳歯
DMFむし歯未処置、喪失、処置永久歯
dmftむし歯未処置乳歯、(むし歯原因で)喪失した乳歯、処置乳歯
DMFTむし歯未処置永久歯、(むし歯原因で)喪失した永久歯、処置永久歯
DONALDDortmund栄養・人体計測長期デザイン試験
ECC早期発現型乳歯むし歯
EPAエイコサペンタエン酸
EPIC癌・栄養の欧州前向き研究
ERGOB口腔生物学の欧州研究グループ
FAO国連食糧農業機関
FAOSTAT国連食糧農業機関統計データベース
FER脂肪エネルギー比
GDP国内総生産
GISSIGruppo Italiano por lo Studio della Sopravvivenza nell’Infarto Miocardico
GNP国民総生産
HBP高血圧
HDL高比重リポタンパク
HIVヒト免疫不全ウイルス
HFI遺伝性果糖不耐症
HOPE心臓転帰予防評価
IARC国際癌研究機構

5.6 歯科疾患予防の勧告本文 

5.6.1 背景 

 口腔の健康(口腔保健)は多くの点で食事と関連しており、例えば栄養は頭蓋顔面の発達、口腔癌および口腔感染症に影響を与える。しかし、本レビューの目的は歯科疾患の栄養的側面に焦点を当てることである。歯科疾患にはむし歯、エナメル質形成不全、歯の酸蝕症および歯周病がある。歯科疾患は医療サービスにとり高額な負担で、総医療費の5-10%を占め、工業国では心血管疾患や癌、骨粗しょう症の治療費を上回る(1)。低所得国では、歯科疾患の従来の修復治療費が医療資源を上回ると思われる。健康の促進および予防戦略は明らかに実行も継続も可能である。 

 歯科疾患に起因する死亡率は低いが、自尊心や摂食能力、栄養、健康に影響を与えるため、小児および高齢者両方の生活の質を悪化させることがある。現代社会では歯の重要な役割は外見を良くすることである:顔面は個人の社会との結びつきを決定するのに重要で、歯は会話や意思疎通に必須である。口腔疾患はかなりの疼痛、不安および社会的機能障害と関連する(2,3)。むし歯は歯の喪失の原因になり、栄養価のある食事摂取、食物摂取の楽しみ、社会生活の自信および生活の質を損なう(4-6)。 

5.6.2 傾向 

 むし歯は乳歯/永久歯列のむし歯経験量を表すdmf/DMF指数で判定する。この指数はむし歯が原因で、むし歯未処置、喪失または処置した歯数または歯面数を示す。歯科疾患は歯の喪失をもたらし、それに伴う歯の状態の指標とは集団における無歯顎(天然歯がない)の割合を示すことである。 

 ほとんどの低所得国では、むし歯有病率は低く、むし歯の90%以上が未処置である。12歳でのむし歯未処置、喪失歯、処置歯(DMFT)の平均値は、中間所得国で3.3、高所得国で2.1であるのに対し、低所得国では1.9であることがデータ(7)で報告されている(表11)。 

12歳児の永久歯むし歯に関するデータには、2つの明らかな傾向がみられる。第一に先進国でのむし歯有病率が低下し、第二に開発途上国における有病率が上昇したことである。開発途上国では糖類の消費が増加しているにも関わらず、十分な量のフッ化物が未だ導入されていないことである。過去30年で先進国のむし歯が著名に減少したにも関わらず、むし歯有病率は多くの先進国で依然として高い。平均DMFTスコアが低い国でも、多くの割合の小児にむし歯がみられるものの、永久歯むし歯には歯止めがかかっていると指摘されている(8)。 

表11 12歳児むし歯の傾向

国または地域12歳での1人あたりの平均DMFTa
DMFTaDMFTaDMFTa
工業国
オーストラリア19569.319822.119980.8
フィンランド19757.51982419971.1
日本19755.919933.619992.4
ノルウェー19401219794.519991.5
ルーマニア1985519914.319963.8
スイス1961-639.619801.719960.8
英国19833.119931.41996-971.1
米国19467.619802.619981.4
開発途上国
チリ19602.819786.619964.1
コンゴ民主共和国19710.119820.319870.4-1.1
仏領ポリネシア19666.519863.219943.2
イラン・イスラム共和国19742.419764.919952
ヨルダン19620.219812.719953.3
メキシコ19755.319912.5-5.119972.5
モロッコ19702.619804.519992.5
フィリピン19671.419812.919984.6
ウガンダ19660.419870.519930.4

出典:参考文献(7) 
aむし歯未処置、喪失歯、処置永久歯 

 多くの開発途上国ではDMFT数が低いが、乳歯むし歯の有病率は高い。欧州の5歳児におけるデータは、むし歯有病率の減少傾向が停止していることを示す(9-11)。5-7歳児では、2.0未満の平均dmft数がデンマーク、イングランド、フィンランド、イタリア、オランダおよびノルウェーで報告された(12)。これより高いdmft数がベラルーシ共和国(4.7)(13)、ハンガリー(4.5)(14)、ルーマニア(4.3)(15)およびロシア連邦(4.7)(16)で最近報告された。 

 12歳でむし歯がないことは、生涯にわたってむし歯がないことを意味しない。1988年以降の欧州連合における各国の平均DMFTは、35-44歳で13.4-20.8であった(17)。口腔の健康状態に関するWHOガイドラインでは、35-44歳での14以上のDMFTが高いと考えられる。ほとんどの開発途上国で、この年齢群の成人におけるむし歯は低く、例えば中国で2.1(18)、ニジェール共和国で5.7(19)である。高齢者における歯根面むし歯の有病率と重症度のデータはほとんどないが、高齢人口が増加し、歯の維持が重要になるため、歯根面むし歯は今後公衆衛生上の問題として大きくなる可能性がある。 

 いくつかの工業国で無歯顎者数が経時的に減少している(3)。しかし、多くの割合の高齢者が無歯顎または部分的な有歯顎である。高齢人口が増加するに従い、歯の喪失が世界的に多くの人々に影響を与えつつある。表2にはこれまで報告された世界的な高齢者集団における無歯顎者率情報を要約している。 

表12 世界の高齢者における無歯顎者率

WHO地域無歯顎者率(%)年齢群(歳)
アフリカ地域
ガンビア665
マダガスカル2565-74
アメリカ地域
米国2665-69
カナダ5865
東地中海地域
エジプト765
レバノン2064-75
サウジアラビア31-4665
欧州地域
アルバニア6965
オーストリア1565-74
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ7865
ブルガリア5365
デンマーク2765-74
フィンランド4165
ハンガリー2765-74
アイスランド1565-74
イタリア1965-74
リトアニア1465-74
ポーランド2565-74
ルーマニア2665-74
スロバキア4465-74
スロベニア1665
英国4665
西太平洋地域
カンボジア1365-74
中国1165-74
マレーシア5765
シンガポール2165
東南アジア地域
インド1965-74
インドネシア2465
スリランカ3765-74
タイ16.365

出典:参考文献(7) 

 歯の酸蝕症は世界的に多くの国で比較的新しく認識された問題であり、食事と関連している。有病率が工業国で上昇しているという事例の根拠があるが、本疾患のパターンを経時的に示すデータはない。世界的な傾向を論評するため入手できるデータも不十分である;しかし特定の母集団では小児の約50%が罹患している(20)。 

5.6.3 食事と歯科疾患 

 栄養状態が萌出前の歯に影響を与えるが、この影響は萌出後の食事効果ほど重要ではない(21)。ビタミンDとAの欠乏およびタンパク質とエネルギーの不足は、エナメル質形成不全および唾液腺萎縮と関連する(歯垢中酸を緩衝する口腔の能力を減退させる)。開発途上国では食事の糖類が少なく、低栄養はむし歯と関連しない。低栄養に糖類摂取増加が加わると、むし歯のリスクが上昇する。 

 歯周病は低栄養の母集団で急速に進行するという根拠がある(22);宿主の免疫反応を適切に保つために、栄養が重要な役割を果たすことからこのことの説明が可能である。ビタミンCの重度欠乏とは別に、壊血病と関連する歯周炎の原因となるが、これ以外では食事と歯周病との関連を示す根拠はない。歯周病における抗酸化栄養素の役割が現在研究されている。歯口清掃の不良が歯周病発現の最も重要な危険因子である(21)。低栄養は口腔感染症の重症度を悪化させ(例えば、急性壊死性潰瘍歯肉炎)、人の容貌を変形させる口腔顔面壊疽である水癌などの生命を脅かす疾患に進展させる可能性がある(23)。 

 食事由来の糖類の嫌気性代謝により、歯垢中の細菌が有機酸を産生し、エナメル質および象牙質が脱灰してむし歯が発生する(24)。有機酸は歯硬組織のカルシウムヒドロキシアパタイトを溶解し、脱灰が発生する。唾液はpH7でカルシウムおよびリン酸塩で飽和し、再石灰化が生じる。口腔pHが十分に時間をかけて高く保たれた場合、エナメル質の再石灰化を促進する。しかし、酸の侵襲が大きければ、脱灰が優勢になり、エナメル質がさらに多孔質になって最終的にむし歯が発生する(25)。むし歯の進行には糖類と細菌発生が必要であるが、歯の感受性、細菌の構成、唾液の量と質が影響を与える。 

食事の糖類とむし歯 

 食事の糖類がむし歯の病因に役割を果たすという根拠が、in vivoおよびin vitroのヒト研究、動物実験および実験的研究などの様々な研究で、多く示されている(21)。ひとまとめにすると、これら研究データは、炭水化物のむし歯原性の全体像を示す。糖類は疑いもなくむし歯の進行の最も重要な食事要因である。ここでは、「糖類」という用語は全ての単糖類および二糖類を意味し、「砂糖」という用語はスクロースのみを意味する。「遊離糖質」という用語は、製造業者、調理人または消費者が食物に添加する全ての単糖類および二糖類に加えて、蜂蜜やフルーツジュース、シロップに天然に存在する糖類を意味している。「発酵炭水化物」という用語は、遊離糖質、グルコースポリマー、オリゴ糖および高度に精製されたデンプンを意味する;非デンプン多糖および生デンプンは除外される。 

 世界的な疫学研究で国レベルの砂糖消費とむし歯を比較した。Sreebny(26,27)は47ヶ国を対象に12歳でのむし歯経験(DMFT)と砂糖供給データを比較して、有意な相関を見出した(+0.7);むし歯における変動の52%が、1人あたりの砂糖の入手により説明が可能であった。1年間の1人あたりの砂糖消費が18kg未満の国では、一貫してDMFTが3未満であった。WoodwardおよびWalker(28)の後年の分析では、先進国における関連は見出されなかった。それにも関わらず、むし歯の変動の28%は砂糖の入手によるものであった。砂糖入手が50g/日未満の26ヶ国中23ヶ国で、12歳での平均DMFTが3未満で、これ以上の入手国では半数のみが3未満のDMFTであった。 

 MiyazakiおよびMorimoto(29)は、1957年-87年の日本における砂糖入手と12歳でのDMFTの有意な相関(r=+0.91)を報告した。第二次世界大戦中に砂糖の入手が減少した母集団では、むし歯が減少したが、その後制限が解除された後増加した(30-32)。これらのデータはフッ化物配合歯磨剤の使用が広まる前のものであるが、Weaver(33)は1943-49年に、飲料水におけるフッ化物濃度に関わらず北イングランドの地域で、むし歯減少を観察した。 

 伝統的な生活様式を保ち、糖類摂取が一貫して低い孤立地域では、むし歯が非常に低い。このような社会では経済が発展するとともに、食事の砂糖および他の発酵炭水化物が増加し、むし歯の顕著な増加と関連する。この傾向の実例が米国のアラスカのイヌイット(34)や、エチオピア(35)、ガーナ(36)、ナイジェリア(37)、スーダン(38)、トリスタンダクーニャのセントヘレナ島(39)の集団である。 

 糖類に大きく曝されている多くの集団は、母集団平均よりもむし歯が高いという根拠が示されている。長期に砂糖を含有する薬剤を必要とする慢性疾患の小児(40)および菓子製造作業員(41-44)がその実例である。加えて、習慣的に糖類摂取が少ない人々の集団、例えば歯科医の子供(45,46)や厳密な食事レジメンの施設の子供(47,48)に、むし歯が稀であると報告されている。母集団観察からのデータの弱点は、糖類摂取の変化が精製デンプン摂取の変化と関連することが多く、むし歯の変化を単に糖類摂取の変化とすることができないことである。例外は遺伝的フルクトース不耐性(HFI)の小児の研究からのデータである。HFIの人々は糖類摂取が制限され、デンプン摂取は制限されない。HFIの人々においては、糖類摂取が少なくデンプン摂取が平均より多く、むし歯は稀であることが研究で示された(49)。 

 ヒトの介入研究については稀にしか行われず、報告されたものは何十年も前のもので、それは糖類摂取とむし歯との間の強い関連が確立される前のフッ化物利用以前の時代に行われた。今日、倫理上の制約のため、このような介入実験を行うことは不可能である。1945-53年にスウェーデンの成人精神科施設で行われたVipeholmの研究(50)で、粘着性の変化した様々な砂糖食品を1日の様々な時間に消費して、むし歯の進行に対する効果を検討した。大量の砂糖でも、最大4回まで食事で消費する場合、むし歯はほとんど増加しないことが見出された。しかし、食間の砂糖消費の頻度はむし歯の顕著な増加と関連した。むし歯となる機能は砂糖の多い食品をなくすと消失した。研究はフッ化物利用以前の時代のものであり、複雑な性質を備えているが、結論は有効である。Turkuにおける研究では、1970年代にフィンランドの成人で行われた比較対照食事介入研究であり、スクロースをキシリトール(非むし歯原性甘味料)にほぼ全面的に代えたところ、2年間でむし歯が85%減少した(51)。 

 多くの断面疫学研究で、世界の多くの国における糖類摂取とむし歯の程度が比較された。1990年代早期以前の研究が、Rugg-Gunnにより要約された(21)。消費された糖類の量とむし歯増加とを比較した21研究中9研究で、有意な関連が示されたが、12研究では示されなかった。さらに、糖類摂取頻度とむし歯との関連を検討した37研究中23研究で有意な関連が示されたが、14研究では示されなかった。 

 1968-70年に米国の9-29歳の2,514人で行われた断面研究で、最も多く糖類を消費した若年者のむし歯は(標本の上部15%)、最も少ない消費量の若年者(標本の下部15%)の2倍であった(52)。Granathら(53)は、スウェーデンの就学前小児の乳歯むし歯と関連する最も重要な要因は、糖類摂取であることを示した。歯口清掃とフッ化物の効果が維持されると、食間の糖類摂取が低い小児と高い小児のむし歯の差は最大86%であった。他の研究で、フッ化物利用と歯口清掃は、糖類消費よりもさらに強くむし歯と関連することが示された(54,55)。英国の近年の研究において、4-18歳の小児の代表的なサンプルでは、むし歯と遊離糖質摂取の程度と有意な関連を示さなかった;しかし15-18歳の群では、遊離糖質消費者の多い群は、少ない群よりむし歯が多かった(70%対52%)(20)。 
 中国(56)、デンマーク(57)、マダガスカル(58,59)、サウジアラビア(60)、スウェーデン(61,62)、タイ(63)および英国(64)などの世界中の国または地域で行われた多くの断面研究で、糖類消費と乳歯および/または永久むし歯むし歯に関連があることが示された。 

 食事とむし歯の進行との関連を検討する場合、経時的な糖類摂取習慣がむし歯経験の変化と関連する縦断的なデザインが適切である。このような研究はむし歯の進行と糖類摂取の間に有意な関連を示した(65-67)。イングランドの11-12歳の小児400人の包括研究で、2年間の総糖類摂取とむし歯増加との間に弱いが有意な関連が示された(r=0.2)(67)。米国のミシガン試験は試験開始時10-15歳の小児の糖類摂取とむし歯増加との関連を3年間検討した(66)。食事の糖類量とむし歯との間に弱い関連がみられた。 

 糖類消費が高くフッ化物が広範に利用される国で、食事の糖類とむし歯との関連が消失するかどうかを検討するために、縦断研究が予防法の行われている現代社会で施行され、そのデータは糖類消費とむし歯の間に関連があると結論付けられている(68)。多くのこれまでの研究は方法論的によくないデザインで、不適切な食事分析方法を使用し、不十分な有意性であったため、糖類摂取とむし歯の進行の関連を示していなかった(68)。研究母集団の糖類摂取の範囲が限定されたため、個人の糖類消費とむし歯増加の関係は弱いものであった。母集団の全員が疾患危険因子に暴露される場合には、危険因子と疾患の関連は明確でない(69)。 

 糖類消費の頻度および量。上述のスウェーデンのVipeholm研究を含むいくつかの研究は、糖類摂取が1日4回を超えるとむし歯が顕著に増加することを示している(50,70-72)。頻度対総糖類摂取量の重要性は、互いに区別しにくいため評価が困難である。動物研究のデータはむし歯の進行に糖類摂取頻度が重要であることを示している(73,74)。いくつかのヒトの研究では糖類摂取頻度がむし歯の進行の重要な病因であることを示している(75)。多くの研究は糖類または糖類の多い食物の摂取頻度とむし歯を関連付けているが、糖類消費量とむし歯の関連を同時に検討していないため、これら2つの変数の相対的な重要性に関する結論は出ていない(76-78)。 

 動物研究も糖類消費量とむし歯の進行との間に関連を示した(79-82)。いくつかのヒトの縦断研究では糖類摂取量が頻度より重要であることを示しており(66,67,83,84)、Jamelら(85)は砂糖摂取の頻度と量が重要であることを見出した。 

 糖類消費の量および頻度の間の疑いもなく強い相関が、異なった国の何人かの研究者により示された(67,86-88)。従って、むし歯の進行に関して両変数とも重要であることが根拠で示されている。 

 異なった糖類および食物の固さの相対的むし歯原性。歯垢中pH研究で異なった単糖類および二糖類の相対的酸産性能を調査したところ、ラクトースが他の糖類よりも酸発性が低いことが示された(89)。動物研究でラクトースを除いて単糖類および二糖類のむし歯原性が異なるという明らかな根拠は示されていない。フィンランドのTurkuにおける上記研究は、スクロース添加食摂取とフルクトース添加食摂取には、むし歯の進行の差がないことを示した(51)。転化糖(50%フルクトース+50%グルコース)はスクロースよりもむし歯原性が低い(90)。 

 食物の吸着性または粘着性は、口腔停留時間またはむし歯原性に必ずしも関連しない。例えば、砂糖添加飲料(非粘着性)消費は、むし歯のリスクの上昇と関連する(85,88)。 

 糖類減少が他の食事成分に与える影響。遊離糖質減少が他の食事成分に与える影響を検討することは重要である。母集団の食事データの単純横断分析は、遊離糖質摂取と脂肪摂取の間に逆の関連を示し(91)、遊離糖質減少が脂肪摂取増加をもたらすことが示唆される。しかし、脂肪摂取および遊離糖質摂取の変化は逆の関連ではなく、脂肪摂取減少は遊離糖質ではなくデンプン摂取増加で相殺されることが研究からの多くの根拠で経時的に示されている(92,93)。Cole-Hamiltonら(94)は脂肪および添加糖類摂取が、繊維摂取増加で同時に減少することを見出した。全粒主食穀物や果物、野菜の摂取増加を促進し、遊離糖質消費を減少させる全体的な食事の目標としては、脂肪の消費増加をもたらすことはないと言える。 

フッ化物の影響 

 フッ化物は疑いもなく抗むし歯性物質である(95)。飲料水のフッ化物とむし歯の関連が逆相関であることはよく知られている。フッ化物は小児のむし歯を20-40%減少させるが、むし歯を100%防ぐわけではない。むし歯に対するフッ化物利用の効果に関する対照研究が800以上行われ、フッ化物がむし歯に対して最も効果的な予防要因であることが示されている(95)。しかし、適切なフッ化物が存在するにも関わらず、研究は未だに糖類摂取とむし歯の関連を示している(33,71,96,97)。小児を対象とした2つの主要な縦断研究では、フッ化物利用と歯口清掃の実行で管理した後も、糖類摂取とむし歯の進行の間に関連が残されていることが観察された(66,67)。Marthaler(68)はむし歯有病率の変化を見直して、フッ化物利用などの予防的手段を講じても、糖類摂取とむし歯に関連がみられると結論付けた。また、適切なフッ化物を利用する工業国では、糖類摂取を減少させない限り、むし歯の有病率と重症度が低下しないとも述べた。フッ化物を利用する集団において、糖類摂取のむし歯の病因における重要性を検討した最近のシステマティックレビューでは、以下のように結論付けている:適切にフッ化物を利用する場合の糖類消費は、ほとんどのヒトで中等度の危険因子となる、定期的にフッ化物を利用しない場合の糖類消費は、むし歯のリスクに対するより強力な指標となる、フッ化物を広範囲に利用すれば糖類消費を制限することがむし歯予防に役割を果たすが、フッ化物利用がない場合ではそれほど強力ではない。フッ化物の予防的役割には議論の余地がない。一方、口腔衛生とむし歯の間には明確な相関関係を示す強力な根拠はない(98-100)。 

 エナメル質形成中に長期にわたり過剰なフッ化物を摂取すれば、歯のフッ素症をもたらす。上水道中のフッ化物濃度が高すぎる場合に限って、歯のフッ素症が観察される(95)。 

デンプンとむし歯 

 むし歯原性の可能性を評価する際、デンプンの異質性(例えば、精製の程度、植物学的起源、生または調理)を考慮するべきである。疫学研究はデンプンのむし歯に対するリスクが低いことを示した。高デンプン/低糖類食を消費する人々はむし歯の程度が低く、低デンプン/高糖類食を消費する人々はむし歯の程度が高い(39,48,49,51,67,101,102)。ノルウェーおよび日本で、第二次世界大戦中にデンプン摂取が増加したが、むし歯発生は減少した。いくつかの種類の実験で、生のデンプンのむし歯原性が低いことが示された(103-105)。調理したデンプンのむし歯原性はスクロースの約1/3・1/2である(106,107)。しかし、デンプンおよびスクロースの混合物のむし歯原性はデンプンのみよりも高い(108)。口腔内電極を使用する歯垢中pH研究は、デンプン含有食物が歯垢中pHを5.5以下に低下させるが、デンプンはスクロースほど酸発性がないことを示した。歯垢中pH研究はむし歯の進行ではなく基質からの酸産生を測定しており、一部のデンプン含有食物にみられる保護的要因または唾液流量の刺激に対する食物効果を判定していない。 

 工業国ではグルコースポリマーおよび前生命力学的要因が多く食物に添加されている。これらの炭水化物のむし歯原性の根拠は少なく、動物研究や歯垢中pH研究、in vitro研究からのデータは、マルトデキストランおよびグルコースシロップがむし歯原性であることを示唆している(108-110)。歯垢中pH研究およびin vitro実験は、イソマルトオリゴ糖およびグルコオリゴ糖がスクロースほど酸産生能が高くないことを示唆している(112-114)。しかし、フルクトオリゴ糖はスクロースと同じ酸産生能を示すという根拠がある(115,116)。 

果物とむし歯 

 ヒトの食事の一部として消費される場合、果物がむし歯の進行の重要な要因であるという根拠はない(67,117-119)。多くの歯垢中pH研究が果物の酸産生能を示した(スクロースほどではない(120-122))。動物研究では果物の摂取頻度を高くすると(例えば、1日17回)むし歯を誘発する(123,124)が、スクロースほどではないことを示している。疫学研究のみに果物の消費とDMFTの関連がみられ(125)、穀物農園作業員と比較すると、果物農園作業員の果物摂取が非常に多く(例えば、1日にリンゴ8個またはブドウ3房)DMFTが高いことは喪失歯数の差でも明確である。 

むし歯から保護する食事要因 

 いくつかの食事成分はむし歯から保護することが可能である。いくつかの実験研究(126,127)、ヒト観察研究(67)および介入研究(128)で、チーズの抗むし歯性が示された。牛乳にはカルシウムやリン、カゼインが含有され、これら全てはむし歯を阻害すると考えられている。いくつかの研究は牛乳摂取後の歯垢中pH低下が無視できることを示した(129,130)。牛乳の抗むし歯性は動物研究で示されている(131,132)。Rugg-Gunnら(67)はイングランドの若年者研究で牛乳の消費とむし歯増加に逆の関連を見出した。全粒穀物も保護的特性を有する。全粒穀物は咀嚼がより必要であり、唾液流量を増加させる。唾液流量に良い味覚および/または自動的刺激を与える他の食物は、ピーナツや硬いチーズ、ガムである。有機および無機リン酸(非精製植物性食物にみられる)の両方とも動物研究で抗むし歯性が示されたが、ヒトにおける研究では決定的ではなかった(133,134)。動物研究およびヒトにおける実験研究の両方とも、紅茶抽出物が歯垢中フッ化物濃度を増強し、糖類の多い食事のむし歯原性を低下させることを示した(135,136)。 

母乳とむし歯 

 疫学研究では、母乳の健康に対する肯定的な効果の1つとして、母乳がむし歯の低い程度と関連することを示した(137,138)。いくつかの特異的症例研究で、頻回の長期間の夜間での授乳と小児期早期のむし歯との関連が示された。哺乳瓶は早期発現型乳歯むし歯と関連するため、これを使用しない母乳保育乳には利点がある。さらに、母乳哺育児には遊離糖質を無添加の調整人工乳も与えるとよい。調合乳は歯科的な健康に利益をもたらさない。 

歯の酸蝕症 

 歯の酸蝕症は歯の硬組織の進行的不可逆性の欠損であり、細菌が関与しない過程で外因性および/または内因性の酸により歯の表面から化学的に溶解する。外因性の食事の酸にはクエン酸、リン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、酒石酸および炭酸があり、例えば果物やフルーツジュース、清涼飲料、食用酢に含まれる。重度の酸蝕の結果、全ての歯が欠損となる(139)。ヒト観察研究で歯の酸蝕症および酸性食品と酸性飲料の消費に関連があることが示され、これにはフルーツジュースや清涼飲料(スポーツドリンクを含む)、漬物(食用酢を含む)、柑橘類、ベリー類がある(140-144)。加齢に伴う歯の酸蝕症は清涼飲料の大量摂取が大きいことが示された(20)。また実験的臨床研究で、酸性飲料の消費または摂取が唾液のpHを有意に低下させることが示されている(121)。コーラの飲用により1時間以内にエナメル質が軟化するが、牛乳またはチーズの摂取で元に戻る(145,146)。動物研究では果物および清涼飲料が酸蝕をもたらすことが示され(124,147)、フルーツジュースは果物自体よりも有意により破壊的である(148,149)。 

5.6.4 根拠の強度 

 食事の糖類をむし歯のリスクと関連付ける根拠の強度は、各研究の検出力ではなく研究の多様性にある。介入研究が強力な根拠をもたらした(50,51)が、これらの研究の弱点はフッ化物利用以前の時代に行われたことである。さらに最近の研究では、糖類摂取とむし歯の関連を示しているが、フッ化物利用以前のものほど強くない。しかし、多くの開発途上国の人々は、まだフッ化物を利用していない。 

 むし歯は経時的に発症し、蓄積的なむし歯量と断面的な食事を同時に測定しても、むし歯進行における食事の役割を真に反映しないため、断面研究は慎重に解釈するべきである。現在のむし歯の程度は数年前の食事と関連する。むし歯の変化をモニターし、その食事要因との関連をみる縦断研究(66,67)は強力な根拠をもたらす。このような研究は全体的に高い糖類摂取でかつ個人間の変動の少ない母集団で行われている;このことが、今まで報告された相関関係の弱いことを説明している。 

 糖類消費の変動が少ないという問題を克服した研究とは、食事の大きな変化の後のむし歯をモニターしたもので、例えば第二次世界大戦中の母集団での研究や、糖類を食事に導入する前後の母集団での研究である。これらの試験は、むし歯の変化が経済的成長における変化および遊離糖質の消費増加を、反映することを明らかに示している。時に糖類消費における変化には、他の精製炭水化物増加が伴った。しかし、糖類消費が減少してデンプン消費が増加しても、むし歯の程度が低下する例もある。 

 砂糖入手とむし歯の程度が関連するという強力な根拠が、世界的規模の生態学研究でもたらされている(26,28)。これらの研究の限界は、砂糖の実際の摂取ではなく、入手に関するデータを使用していることであり、糖類摂取頻度を測定せず、摂取の程度が母集団で一様であると仮定している。また、スクロースの数値を使用しているが、多くの国で他の糖類から総糖類量を得ている。これらの研究は12歳のDMFTのみを検討しているが、母集団の代表的なサンプルとは限らない。 

 歯の形態学、歯垢中細菌生態学、唾液の流量と成分、食事の形態(動物実験では通常粉状である)が異なるため、動物研究の結果をヒトに外挿する時には慎重に行う必要がある。しかし、動物研究は炭水化物の定義された種類、頻度および量のむし歯に対する効果の試験を可能にした。 

 歯垢中pH研究は歯垢中酸産生を測定するが、食料の酸産生能はそのむし歯原性の直接的な測定にはならない。また歯垢中pH研究は食物、唾液流量および食事の他成分の効果の保護的要因を考慮していない。果物および調理デンプン食品でpH5.5以下に低下することを示した歯垢中pH研究の多くは、口腔内電極法で行われた。この電極は高感度かつ非識別的で、全ての炭水化物に「全か無か」の反応を呈する傾向がある(150)。 

 1年間の1人あたりの砂糖消費が15kg(1日1人あたり40g)を上回ると、砂糖摂取増加とともにむし歯が増加することが一貫して示されている。1年間の1人あたりの砂糖消費が10kg(1日1人あたり約27g)以下であると、むし歯は非常に低い(26,28,29,51,151-158)。フッ化物利用(飲料水のフッ化物濃度は0.7-1.0ppmまたは90%以上がフッ化物配合歯磨剤である)は糖類消費の安全レベルを増加する。 

表13-16 食事、栄養および歯科疾患と関連する根拠の要約 

表13 食事とむし歯の関連における根拠の強度の要約

根拠むし歯減少関連なしむし歯増加
確実な根拠フッ化物利用
(局所および全身)
デンプン摂取(調理および生のデンプン食品で米、ジャガイモ、パンなど。糖類を添加したケーキ、ビスケット、スナックを除く)遊離糖質量
遊離糖質の頻度
おそらく確実な根拠硬いチーズ
砂糖を含有しないガム
新鮮な果物
可能性がある根拠キシリトール
牛乳
食物繊維
低栄養
不十分な根拠新鮮な果物ドライフルーツ

表14 歯の酸蝕症に対する食事に関連する根拠の強度の要約

根拠酸蝕症のリスク低下関連なし酸蝕症のリスク上昇
確実な根拠
おそらく確実な根拠 清涼飲料とフルーツジュース
可能性がある根拠 硬いチーズ
フッ化物
不十分な根拠 新鮮な果物

表15 エナメル質形成不全に対する食事に関連する根拠の強弱の要約

根拠エナメル質形成不全のリスク低下関連なしエナメル質形成不全のリスク上昇
確実な根拠 ビタミンD 過剰のフッ化物摂取
おそらく確実な根拠 低カルシウム血症

表16 歯周病に対する食事に関連する根拠の強度の要約

根拠歯周病のリスク低下関連なし歯周病のリスク上昇
確実な根拠 良好な歯口清掃 ビタミンC欠乏症
おそらく確実な根拠

可能性がある根拠 低栄養
不十分な根拠 抗酸化栄養素 ビタミンE補給剤 スクロース

5.6.5 疾患別勧告 

 母集団の糖類消費が少ないとむし歯の程度も低いため、遊離糖質消費の勧告最大レベルが重要である。母集団の目標により口腔健康リスクが評価され、健康促進目標がモニターされることが可能である。 

 入手できた最も良い根拠とは、1年間の1人あたりの遊離糖質消費が15-20kg未満の国で、むし歯のレベルが低いことが示されているものである。これは1日の40-55g摂取と等しく、エネルギー摂取の6-10%と同じである。現在の遊離糖質消費が低い国(1年間1人あたり15-20kg未満)では、消費レベルを増大させないことが特に重要である。高消費レベルの国には、政府保健当局および意思決定者が遊離糖質量減少のための国特定および地域特定目標を作成し、エネルギー摂取の10%を超えない最大量にすることを勧告している。 

 遊離糖質量に関する母集団目標に加えて、遊離糖質消費の頻度目標も重要である。遊離糖質を含有する食物および/または飲料の消費頻度は、1日最大4回に制限すべきである。 

 現在栄養に関する過渡期にある多くの国は、適切にフッ化物を利用していない。例えば、安価な歯磨剤や水、食塩、牛乳などの適切な方法を介して十分なフッ化物利用を促進すべきである。各々の国に応じたフッ化物利用の計画と実行は、政府保健当局の責任である。また、その他地域で選択できるフッ化物利用計画の実施と結果の研究を奨励すべきである。 

 歯の酸蝕症の発生を最小にするために、清涼飲料とジュースの摂取量および頻度を制限すべきである。低栄養を排除すると、エナメル質形成不全および他の低栄養が口腔の健康に与える影響(例えば、唾液腺萎縮、歯周病、口腔感染症)を予防することができる。

第28回 WHO総会事務総長報告

フッ化物添加と歯科衛生 
1975年5月29日

概要 
本事務総長報告は1974年1月執行理事会によってなされた要請(1974年1月22日執行理事会決議EB53.R30)に応じて提出されたものであり、次の事実をもととしている。 
○ 発展途上国における歯科齲蝕問題の急激な増加 
○ 齲蝕予防フッ化物添加事業に対象者数と全世界人口との大きな差 
○ 様々な種類のフッ化物の安全な使用のより科学的な証明 
○ フッ化物添加が、学校単位のプログラムだけでは入手できない所で、使用される新しい技術処置の向上と合法化 
○ 予防措置を有効に講じられないことから生じる歯科医の過度の負担 

 第28回世界保健総会は執行理事会決議EB53.R30に基づき事務総長の提出した、水道水へのフッ化物添加の促進その他の歯科齲蝕予防法および歯科齲蝕病因・予防研究の支援に関する報告を審議した。 

 食生活の変化、特に精製炭水化物の摂取率の増加に伴う世界的な歯科齲蝕予防の重要性を認めた。 

 いかなる国であっても単に歯科治療サービスを提供するだけでは歯科齲蝕問題を解決することは期待できないことに注目した。歯科齲蝕予防措置としてフッ化物を使用することの安全性および効果に関する資料は十分入手したとみなした。 

 最適含有量のフッ化物を含む水道水は最も効果的であるとされている歯科齲蝕予防方法であるが、第22回世界保健総会以後、飲料水中のフッ化物含有量が不十分でフッ化物添加が不可能な地域においてフッ化物の諸利点をとり入れたそれ以外の方法が開発され、かつまた(あるいは)テストされたことに注目した。 

 世界保健機関は、安全な水の供給について加盟国を援助し、その事業をすすめるにあたって歯科衛生面を考慮に入れることが重要であることに留意した。 

 多くの加盟国は水道水へのフッ化物添加その他のフッ化物利用措置を組織的な齲蝕予防事業にまだ十分とり入れていないことに注目した。 


1. 事務総長に対しその報告に感謝する。 

2. 
次のことを勧告する。 
(a) 事務総長提案事業の実施 
(b) 公認の歯科齲蝕予防措置、特に水道水への最適濃度フッ化物混入の推進 
(c) 加盟国の国家的齲蝕予防事業の企画と実施を支援 

3. 
国家の保健事業に歯科齲蝕予防事業をとり入れることを緊急重大事とみなすよう加盟国に要請する。 

4.
事務総長に下記の事を要請する。 
(a) 予算計上財源および非予算計上財源より本事業用の財政援助を得られるよう努力すること。 
(b) 事業の進展状況、特に歯科齲蝕予防事業の人口集団に対する効果について定期的に世界保健総会で報告すること。 

提案は、次の三つの部分から成り立つ。 

(1) 地域の水道水のフッ化物添加と、歯科齲蝕予防のその他の方法を増強するプログラムの作成 
(2) 病因学、歯科齲蝕の予防および関連諸問題の共同研究および調査の計画 
(3) 予防活動と研究活動を連携させる情報収集と情報流布システムの計画 
 これにより、各国の予防および研究がより効果的、より有用になるからである。 

 いうまでもなく、この計画は各会員国がこの問題に取り組む準備ができているかどうかにかかっている。 

 それによって、WHOの歯科保健プログラムが、3つの統合活動プログラムが指示しているように、実行されうるのである。会員国によるこの分野の活動およびWHOによるその後のプログラムの立案は、すべての先進国での最頻発の病気であり、発展途上国でもそうなりつつある。 

 歯科齲蝕の発生を低下させるという長期間の目標と共に、世界保健総会(World Health Assembly)に託されている。 

 各国が、研究機関を設け国家保健局の齲蝕予防活動の計画とプログラム作成を補佐することが提案されている。 
 会員各国が、予防プログラムを遂行し、国の特定の目標への進歩の評価において自国の資源を動員する場合は、要請があればWHOは会員各国に援助を与える。

第22回 WHO総会決議文

弗素化と歯科衛生 
1969年7月23日

 第22回世界保健総会は、執行理事会決議EB43.R10に基づき事務局長の提出した水道水の弗素化に関する報告を審議し、齲蝕が多くの人口集団に蔓延し、また、ますます多く発生していることを念頭において、数か国における研究が、一貫して弗化物が供給水の中に自然に適当な濃度である場合にはこの疾患の蔓延度が著しく低いことが示されていることを想起し、現在、この操作に経験のある国々から水道水中の弗化物濃度を適当なレベルに調節することは、実行しやすく、安全かつ効率的な公衆衛生的な手段であるとする報告を了承し、全人口に対し、歯科衛生の観点から弗化物の効果をもたらすには、これ以外に同等の有効手段がないことに注目し、この問題に関する広範な科学的文献中に、適当な濃度の弗化物を含む水道水を用いることが、人間の健康に悪影響があるという証拠が全く認められないことを強調し、数か国において、権威があり、かつ別個に行われたいくつかの調査が、すべて上記と似た結論に達していることを認め、さらに、多くの人口集団にとって、安全な水の供給が第一の要件であることを認め、 

1. 事務局長に対し、その報告を感謝し、 

2.
加盟国に対して、水またはその他の原因に由来する弗化物の摂取が、特定人口にとって適量以下である場合の地域社会供給水の弗素化の可能性について検討し、また、可能な場合には、これを実施すること、ならびに地域社会供給水の弗素化が実現困難な場合には、歯科衛生対策として弗化物を用いた方法について研究するよう勧告する。 

3.
事務局長に対し、齲蝕の病因論、食品中の弗化物含有量、飲料水中の適当な濃度の弗化物の作用機序、および天然フッ化物の過度の摂取の影響に関する研究の奨励を継続し、その結果を世界保健総会に報告するよう要請する。 

4.
事務局長に対し、この決議について、すべての加盟国の注意を喚起するように要請する。

アメリカ歯科医師会
フロリデーション(水道水フッ化物濃度適正化)の有効性と安全性に関するステートメント

(2000年6月29日)

 アメリカ歯科医師会は、40年以上にわたり、むし歯予防のために安全かつ効果的な方法として地域のフロリデーション(水道水フッ化物濃度適正化)を推奨してきました。フッ化物は天然由来の抗むし歯性化合物であり、岩石と土壌中で微量元素と結合して、地殻に天然に存在しています。微量のフッ化物は天然のかたちですべての水にも含まれており、程度の差こそあれ飲食物にも微量に含まれています。フロリデーション(水道水フッ化物濃度適正化)とはむし歯予防のために0.7ppm-1.2ppmの範囲で天然のフッ化物イオン濃度を調整する過程をいいます。 

 “フロリデーションはCDC(疾病管理センター)によって20世紀の10大公衆衛生業績の一つに認められました”とリチャードF.マスカラD.D.S.アメリカ歯科医師会長は述べました。“フッ化物の利益は歯科医療を受け難いアメリカ人、とりわけこどもたちに、重要な意味を持っています。フロリデーションは安全で、効果的で、しかも国民の公衆衛生にとって極めて最良の活力に満ちたパワフルな方策である”と。 

 アメリカ歯科医師会のほかにも、およそ100の国内ないし国際的な機関がむし歯予防にとって地域水道水フッ化物濃度適正化の公衆衛生的な利益を認めています。WHO(世界保健機関)、アメリカ合衆国公衆衛生サービス、アメリカ医学協会、アメリカ小児学会、アメリカ家庭医学会、IADR(国際歯科学会)、アメリカ教師・父母会、アメリカ癌学会など。しかも、ちょうど先月にはデビットサッチャー公衆衛生長官がOral Health in America(アメリカの口腔保健)に次のように書いています。“フロリデーションは小児と成人のむし歯予防をする際に安全でかつ効果的です。しかも、フロリデーションは人々の社会経済状態に関わりなく、地域に水道水が供給されているすべての住民にとって利益をもたらします。” 

 不幸なことですが、フロリデーションの安全性と有効性に関する証拠は山ほどありますが、1億以上のアメリカ人はフロリデーションの直接的な利益にあずかっていません。州と地方歯科協会と手をとりあって、アメリカ歯科医師会は、フロリデーションによる利益を多数の地域に拡がるように、連邦、州と地方機関への働きかけを続けます。 

 フロリデーションに関するアメリカ歯科医師会の方針はだれにでも受け入れられている科学的な知識を基本に据えています。この知識そのものは科学的な手法で研究を遂行し、研究所見に基づいて適切にバランスのとれた結論を導きだし、しかも広範囲に公開されて閲覧されている査読制度のある専門雑誌に研究結果が公表された、国家公認の多くの科学者たちの努力の成果に依拠しています。さらに、科学的な所見の確立によって、これまでの研究の信頼性を補強することにもなります。 

 フロリデーション(水道水フッ化物濃度適正化)フッ化物とフロリデーションに関する情報については、アメリカ歯科医師会の次のサイトを御利用ください。http://www.ada.org/goto/fluoride/

アメリカ栄養士会の見解
健康に対するフッ化物の影響

WHO、FAO、アメリカ、EU連合などではフッ素を栄養素としています 
アメリカ栄養士会の見解 
健康に対するフッ化物の影響 
(1998年9月28日米国下院可決) 

アメリカ栄養士会雑誌 2000;100:1208-1213掲載 
概要

 フッ素は体内組織の石灰化に重要な元素です。口腔の健康のために局所的、また全身的なフッ化物を使用した結果、う蝕とう蝕に関連する障害を大きく減少させました。 
 公共の水道水フッ化物濃度適正化は、今ある最も効果的な歯科公衆衛生手段として90を越える保健専門機関によって支持されています。しかしながら、約半数のアメリカ合衆国民は、地域の水道水フッ化物濃度適正化とフッ化物配合製品の使用によって得られる恩恵を十分に享受できていません。 
 フッ化物は、骨の健康にとっても有益です。骨粗鬆症予防のため高用量のフッ化物がどうかかわるかについて現在活発に研究中であり、今のところ研究的段階にあると考えられています。 
 栄養学専門家は、定期的に全身的または局所的なフッ化物の使用を監視および促進すべきです。このことは特に成長期にある児童と青少年の時期に重要です。 
 米国栄養士会は水道水フッ化物濃度適正化を含め、適正な量の全身的、また局所的なフッ化物の使用を重要な公衆衛生手段として改めて強力に支持します。しかしながら、高用量のフッ化物の服用を試す場合には、きちんとした計画に基づく臨床試験下での使用に限って認められるべきだということに注意する必要があります。 
見解声明 
 米国栄養士会は、フッ素が体の全ての石灰化組織にとって重要な元素であることを再確認します。適切なフッ化物の摂取は骨と歯の健康に有益であり、そのため、口腔の健康ひいては全身の健康にとって重要で積極的な意味をもっています。

監訳:吉池信男(独立行政法人・国立健康栄養研究所・研究企画・評価主幹)、安藤雄一(国立保健医療科学院・口腔保健部)  
翻訳:葭内顕史(歯科医師)、葭内邦子(管理栄養士) 
下記に全訳を掲載します。 
註:( )の数値は参考文献の番号 
水道水フロリデーションを水道水フッ化物濃度適正化としました。 
原文http://www.eatright.com/adap1000.htm

アメリカ栄養士会の見解 
(1998年9月28日米国下院可決) 

健康に対するフッ化物の影響 
概要 
 フッ素は体内組織の石灰化に重要な元素です。口腔の健康のために局所的、また全身的なフッ化物を使用した結果、う蝕とう蝕に関連する障害を大きく 減少させました。 
 公共の水道水フッ化物濃度適正化は、今ある最も効果的な歯科公衆衛生手段として90を越える保健専門機関によって支持されています。しかしながら、約半数のアメリカ合衆国民は、地域の水道水フッ化物濃度適正化とフッ化物配合製品の使用によって得られる恩恵を十分に享受できていません。 
 フッ化物は、骨の健康にとっても有益です。骨粗鬆症予防のため高用量のフッ化物がどうかかわるかについて現在活発に研究中であり、今のところ研究的段階にあると考えられています。栄養学専門家は、定期的に全身的または局所的なフッ化物の使用を監視および促進すべきです。このことは特に成長期にある児童と青少年の時期に重要です。 
 米国栄養士会は水道水フッ化物濃度適正化を含め、適正な量の全身的、また局所的なフッ化物の使用を重要な公衆衛生手段として改めて強力に支持します。しかしながら、高用量のフッ化物の服用を試す場合には、きちんとした計画に基づく臨床試験下での使用に限って認められるべきだということに注意する必要があります。 

米国栄養士会雑誌 2000;100:1208-1213. 

見解声明 

 米国栄養士会は、フッ素が体の全ての石灰化組織にとって重要な元素であることを再確認します。適切なフッ化物の摂取は骨と歯の健康に有益であり、そのため、口腔の健康ひいては全身の健康にとって重要で積極的な意味をもっていますする自然の元素です。それは、有益な栄養素とみなされていて(1)、体内に微量に存在します。フッ化物は、骨、および歯の健康にとって重要です。体内の約99パーセントのフッ化物は硬組織に含まれています(2)。適量のフッ化物を、水および食物、歯みがき剤・洗口剤による局所応用、診療室における専門的による治療により適用すると、フッ化物は・歯の石灰化と骨密度を増大させます。 

・う蝕の危険性と罹患率(有病率)を減少させます。 
・あらゆる年齢層の人々に対し、生涯を通じてエナメル質の再石灰化を促進させるように働きかけます 

 う蝕予防のためのフッ化物の使用、および水道水と食塩のフッ化物濃度適正化は、現在最も効果的な歯科公衆衛生手段として、90を越える保健専門機 関で承認されています(3)。フッ化物は正常な石灰化に作用するので、骨の健康にとっても重要なのではないかと考えられます。最近の研究では、骨粗鬆症予防にフッ化物の果たす役割があるのではないかという考え方に焦点があてられています。最初に骨の健康に対するフッ化物の役割について、次にう蝕予防におけるフッ化物の役割についで検討していきます。 

フッ化物と骨: 骨の健康のための適用と摂取源 

 飲料水中に1ppm(100万の1またはミリグラム/L当たり)の濃度でフッ化物が含まれる場合、骨組織中へのフッ化物の取り込みは、おそらくは腎臓の機能が減退した高齢者を除けば、骨粗鬆症による骨折を予防するのに十分であるとみなされていません。成人の場合には、フッ化物濃度調整された飲料水から摂取されるフッ化物の概算量は、その飲料水を毎日摂取すると想定して、1日当たり1.8mg (4)-2.7mg(5)までの範囲にあります。 
 この量はフッ化物調整の水を1日に1.5リットルも飲まない多くの女性にとって過大評価となるかもしれません。骨のフッ化物含有量は、地理的な場所によって左右され、食物および飲料水からの日常のフッ化物摂取と直接関連しており、しかも、骨のフッ化物含有量は、年齢とともに増加します(6)。1ppmの飲料水からのフッ化物の摂取は、どうやら明瞭な骨の組織への恩恵はなさそうですが(7)、歯の組織への恩恵があります。1ppmより高いレベルでフッ化物濃度が調整された水の摂取によって実は骨折の危険が増すのではないかという考えは、完全には排除されてはいませんが(7)、1ppmの水準は安全であり、骨折の危険はないと広く認められています(8)。Hydroxyapatiteハイドロキシアパタイト結晶の水酸基イオンと置換したフッ化物イオンは、微細な骨折を起こしやすい無機質の結晶体をつくりうるので、1ppm以上のフッ化物を補充するという処置によって骨質は脆弱になるかもしれません。高用量のフッ化物を補充することは、骨量および骨密度を改善し、特に閉経後の女性では骨粗鬆症による骨折を予防するという仮説が立てられています。この仮説を支持するデータが公表されたにもかかわらず(後述)、それは現時点では納得のいくように証明はされていません(9)。骨質の問題、およびフッ化物治療による骨折の予防効果に関する論争に加えて、過量のフッ化物摂取からの個人の保護、および潜在的な毒性、すなわち、骨のフッ素症に関係する安全性の問題についてもまた、今まで米国食品医薬品局(FDA)の関心事でした。2000年3末現在、米国食品医薬品局はフッ化物補充剤を治療薬として承認していません。 

 フッ化物は、骨細胞(造骨細胞、骨芽細胞)の増殖を刺激し(10)、皮質骨ではなく海綿骨に新たな無機質の沈着を増やすことができる数少ない既知の物質の一つです。したがって、研究者たちは、特に多くの国ですでに承認されているエストロゲンとその他の薬に変わりうる治療として、このフッ化物を使用する治療法がFDAや他の国立機関に承認されるように努力しながら、人間を対象とした前向きの臨床試験でフッ化物を使用し続けています。フッ化物がヒトの骨組織へ有利に作用しうるという証拠を示す研究報告が出されたにもかかわらず、(下を見てください)、この治療の長期的な(例えば、30年以上)有効性の証拠については結論が出ていません。健全なフルオロアパタイト結晶の構造を最大限に利用するためには、フッ化物治療の際の骨ミネラル含有量(BMC)の増加と骨ミネラル密度(BMD)の増加が、カルシウムとビタミンDの適切な摂取(すなわち食事摂取基準)を伴っている必要があります(11、12)。しかしながら、フッ化物を人間に供給することの困難さというものは、以前からフッ化物使用に際しての主な障害となっていました。しかし、現在でも、フッ化物補充剤による治療期間が延長することによって骨量にどのような影響が出るかということが主な関心になっています。 

 フッ化物摂取と骨の関係の簡潔な論評として、まず動物実験について述べ、次いで人の集団での観察と個人を対象とした調査を扱います。 
動物実験による所見 

 骨量と海綿骨組織の密度におけるフッ化物治療の潜在的な有効性は、骨の生体力学的特性、特に骨の強度の低下によって相殺されると、多くの動物実験研究で明らかにされています(13-16)。フッ化物処理された骨の強度の低下は硬度の増加に関連します。それは屈曲荷重でより大きなもろさと破折の原因であると思われます(17)。一般的な考え方として、強度の低下は骨のコラーゲン・無機質の複合物におそらくは由来する骨質の低下と関連しているといわれています(18)。 

人のデータ 

 観察と研究という、人を対象とする2つのタイプからの情報は、……結論していませんが……-フッ化物は骨の健康にとって有益な効果があることを支持しています。種々のフッ化物製剤供給方法の開発は、徐放性カプセルの溶解のように、この研究分野で目覚ましい進歩を遂げてきました。しかし、小腸によるフッ化物イオンの生物学的利用能および吸収についてははっきりわかっていないことから、個々人が徐放性カプセルで服用するフッ化物の適量を見い出そうとしているように……至難の業ですが……、このような安全性についての関心は残ったままなのです。フッ化物濃度が1 ppmよりはるかに高い井戸水の地域における初期の観察研究では、骨粗鬆症性による骨折の割合がフッ化物濃度約1 ppmの井戸水を使う地域よりも低いことを示しました(19)。 
 しかしながら、この初期の希望的観測については、他の地域あるいは住民を対象とする研究によって追認されていません(20)。実際に、特に10年間以上にわたり飲料水中の高濃度のフッ化物に曝露されている場合には、骨折の危険性を増やすかもしれません。しかし、この問題はこれと同量のフッ化物摂取で骨折が減少することを支持する報告もありますので、未解決の状態であります。 
 フッ化物を多めに用いたアメリカ(21-23)おける初期のある調査研究では、フッ化ナトリウム(徐放性に溶解する製剤ではありません)を取り扱うことは、ありがたいようなありがたくないような面倒なものであったことを示唆しています。それによると、脊椎骨の無機質密度(脊椎骨の骨折にいかなる変化もない)増加することを示していますが、骨密度の増加に伴うひどい副作用(例えば脊椎骨以外の骨折頻度の増加、おそらく微細骨折と関係づけられる下肢痛の症状の発現、胃炎)をしばしば伴いました。より新たな徐放性に溶解するフッ化物投与法の使用によって、例えば胃炎(24-26)のような胃への副作用の軽減および下肢痛を解消しました。 
 Pakの最終報告では、フッ化物が一日当たりおおよそ23mg投与された時に(25)、脊椎骨の骨折の減少が認められ、さらに脊椎骨以外の骨折について有意な差はないということでしたが、これはフッ化物は摂るがエストロゲンを摂取していない女性に当てはまることでした。しかしながら、Pak研究では脊椎骨の骨ミネラル密度の見事な向上があったという成果については、骨質の改善として評価されませんでした。ヨーロッパと南アフリカの研究者たちは、Pakと同様に種々のフッ化物製剤を使用し、また種々の治療計画基づいたフッ化物療法に伴って脊椎骨の骨ミネラル密度の向上を観察しています(12.27-31)。 
 脊椎骨以外の骨折の割合はフッ化物治療で減少しませんでした。しかしながら、動物実験とは違って、人間対象の骨質については生検でしか評価することができません。 
 そして、公表された研究期間は数年間だけのフッ化物治療からの結果であり、その後に脊椎骨の骨折の割合にどんな変化をたどるかについて観察するには研究期間は短いといえます。明らかに、フッ化物治療では腰部の脊椎骨および他の骨格の部位で健全な海綿骨質が蓄積するために、カルシウムの補充およびビタミンDの十分な量を併用する必要があります(32)。興味深い観察としては、脊椎骨の骨ミネラル密度の増加がフッ化物治療の中止後では認められなくなったということです(33)。 
 人間の研究におけるフッ化物治療の安全性についての証拠は未だ結論に到達していません。動物モデルからの実験的なデータでは骨質に悪影響を及ぼす可能性が非常に強く示されたので、人間でのフッ化物治療は根拠に基づく標準的方法として認められたというよりはむしろまだ実験的な取り組みの段階として継続されていると言えましょう(34)。 

要約:骨の健康とフッ化物 

 徐放性のフッ化物錠剤が骨格に有益であることを支持する人間を対象とする臨床試験の最近の証拠によると、骨粗鬆症性骨折のリスクが高い高齢者であっても、フッ化物治療を受けている個人の長期にわたる(30年以上)安全性の不確実性を差し引いて考えなくてはいけません。フッ化物が適切に管理されれてはじめて、胃炎と下肢の痛みという副作用を起こさずに、脊椎骨の骨折の減少という恩恵のみに限定された効果が現われることでしょう。 

 フッ化物治療の安全性についての長期的なデータが示されていませんので、このフッ化物療法を認めていないFDAが提示している注意事項は、現時点では妥当であります。確かな証拠が積み重ねられるまで、米国における骨に対するフッ化物療法については抗骨粗鬆症の医療技術の一つとなりえないでしょう。 

フッ化物のう蝕予防効果 

 フッ化物とう蝕の関係については、20世紀初頭のアメリカ合衆国のある地住民の歯に褐色斑を発生しているという記録にさかのぼります。着色歯は、見栄えはよくありませんが、高度にう蝕抵抗性でありました。1930年代の研究から、重度の斑状歯(severe のフッ素症)の出現頻度とその程度は水中のフッ化物濃度に直接関係していたという発見で最高潮に達しました。その後、水道水中の至適フッ化物濃度(0.7-1.2ppm)でのフッ化物摂取では重度の斑状歯を生ずることなく、う蝕予防できることに注目が集まりました。至適量で水道中のフッ化物濃度が調整された多数の地域で、長期間の試みの結果、う蝕有病率の減少にとって、この公衆衛生手段の有効性、安全性および経済性が確認されました(1、35)。 
 初期の研究ではまず最初に子供に注目しましたが、水道水フッ化物濃度適正化は大人のう蝕予防に有効であることもわかってきました。 
 フッ化物の供給方法は水道水フッ化物濃度適正化だけでなく、フッ化物補充剤、フッ化物含有口腔保健製品から行われます。 
 ごく最近の食事摂取基準では、フッ化物摂取のための新しい提案が行われています(表1)。 

歯に対するフッ化物作用のメカニズム 

 フッ化物の主な作用が歯の萌出後に生じます。したがって、主要な効果は子供と成人の両方にとって局所的となります。考えられている作用メカニズムは次のとおりです。 
 ・酸の脱灰に対する抵抗を増加させます。 
 ・初期の脱灰病変部位を再石灰化します。 
 ・歯垢微生物の形成と機能に対し阻害します。 
 ・萌出後の成熟度を増加させます。 
 ・歯の形態を改善します(萌出前)(36) 
 ・萌出前の全身的効果として、フッ化物は胃腸から吸収されます。 
 吸収の割合および程度は、フッ化物供給源の溶解度と一定時間内での摂取量に左右されます。いったん血流に吸収されると、フッ化物は骨および成長途の歯に取り込まれるか、あるいは尿中に排泄されます(2)。歯の発生中に、フッ化物は発育途上の歯の石灰化された構造に取り込まれます。歯萌出後のフッ化物の局所的な効果は、う蝕予防におけるフッ化物の効果のなかで最も重要な理由として信じられていますが、歯の表面が有機酸に曝されている時に発育中の歯のエナメル質周囲にフッ化物が存在していれば、おそらく脱灰を抑える働きを増します。 

・歯の萌出後の全身的効果 

 歯の萌出後に、(全身的なフッ化物応用法で供給された)フッ化物はもはや全身的には歯の形成に関与しません。しかしながら、摂取されたフッ化物は唾液を介して分泌され、一生涯に渡って歯の健康に局所的な利益を与えています(37)。 

・歯の萌出後の局所的効果 

 歯の萌出前にフッ化物が供給されても、う蝕に対して最大の予防効果をあげることはできません。実際には、現段階でのフッ化物の主たるう蝕予防メカニズムは局所的であると考えられています(37)。したがって、局所に存在するフッ化物は、全身的なフッ化物の供給と無関係に、う蝕予防において重要であると考えられます。局所に存在するフッ化物は成人と高齢者も同様に、根面う蝕の予防に重要であります。歯肉が退縮するときに露出したセメント質の石灰化度はエナメル質の石灰化度より低いので、露出した根面が局所のフッ化物に曝されると恩恵を受けます。 
 フッ化物の萌出後の有益な影響としては、歯の表面の水和層中に存在するフッ化物に由来している可能性が大きいのです。フッ化物は歯が有機酸に曝される場合に、脱灰を減少させること及び再石灰化作用を増加させる働きがあります。歯表面でフッ化物に曝される頻度が多ければ、う蝕予防する際にエナメル表層の水和層中のフッ化物濃度が高めに維持され、初期う蝕性病変の再石灰化作用を増強するために一番重要なのです(37)。 
 エナメル質に対する直接的な石灰化作用のほかに、フッ化物はさらに口腔の歯垢微生物にも影響します。これらの細菌は、歯表面のプラーク中に酸(炭水化物発酵の副産物)を分泌して、歯の脱灰を進行させます。細菌細胞へのフッ化物の取り込みは酸の産生を阻害し、それによりエナメル質の脱灰潜在能を低下します(38)。 
 フッ化物は、家庭で、学校であるいは歯科医院で洗口、歯磨き剤あるいはゲルによって歯に局所的に供給することができます。フッ化物濃度適正化された水、また、噛むことのできるフッ化物補充剤も重要な局所的な利益をもたらすと考えられます。したがって、仮に子供の時に水道水フッ化物濃度の調整された水かフッ化物補充剤を摂取されなかった場合でも、すべての年代の人々は局所的なフッ化物応用によって恩恵を受けます。 

指標、供給源および効能 

水道水フッ化物濃度適正化(フロリデーション) 

 水道水フッ化物濃度適正化の定義によれば、0.7-1.2ppm.の間の至適濃度で給水中のフッ化物濃度を調節することです。う蝕予防のための水道水フッ化物濃度正化の価値は、確実に実証されています。至適にフッ化物濃度適正化された地域と非フッ化物濃度適正化地域で各々の地域に生後から居住した学童の比較では、低フッ化物濃度地域の子供の方が61-100%も高いう蝕発生率を示しました(39)。 
 イギリスの研究では、フッ化物適正化された地域の5歳児で平均の44%のう蝕減少であり、貧困層の子供については、54%のう蝕減少を示しました。(40)このようなう蝕減少傾向については、適正にフッ化物濃度の調整された水以外の他の多くのフッ化物供給源、それらは水単独の効果を薄めているのですが、その存在によると思われます(38)。 
 今日、水道水フッ化物濃度適正化は、子供のエナメル質う蝕を20-40%(38)抑制し、歯根面う蝕および大人の歯の喪失を同様に防ぐ手立てとなります。水道水フッ化物濃度適正化は、経済的に貧困な地域に住んでいる人々(彼らはう蝕リスクが高く、歯の管理も行き届かずまた代替のフッ化物供給源を受ける機会に恵まれていません)にとって特に有益です(41)。フッ化物濃度適正化されていない地域では学校水道設備にフッ化物(水の最適のレベルより高く設定される)を加えた結果、顕著なう蝕の減少がありました。しかしながら、現在では米国の少数の学校だけが水道水フッ化物濃度適正化方式を採用しているに過ぎません。the National Preventive Dentistry Demonstration Project (全国予防歯科デモンストレーション・プロジェクト)の著者は、学校で行う様々なう蝕予防プログラムの有効性を比較し、最も費用対効果に優れた歯科公衆衛生手段としては公共の水道水フッ化物濃度適正化であるとあらためて断言しました(41)。 
 アメリカ合衆国の人口の約62%は集中方式の水道設備を備えた地域に住んでおり、適正化されたフッ化物濃度の水を摂取しています(42)。公共の水道設備の約46%ではまだ水道水フッ化物濃度適正化されていません(3、43)。井戸水のフッ化物含量は非常に変動が大きいので水質検査をする必要があります。水道設備のある人口の少なくとも75%最適にフッ化物濃度適正化された水を供給されるべきだというヘルシーピープル2000の米国公衆衛生局の目標は達成されませんでした。改訂されたHealthy People2010では、目標を75%に設定しています(44)。 
 水道水フッ化物濃度適正化は予防歯面あたりの費用の面から、米国のう蝕予防として最も費用対効果の高い地域ベースの方策です(45)。米国の水道水フッ化物濃度適正化による毎年の直接コスト(一次コスト)は、$0.50/人/年で、そして0.12から5.41ドル/人/年までの範囲にあります。コストの変動は地域の大きさによります(46)。水道水フッ化物濃度適正化は最も費用対効果の高い公衆衛生的う蝕予防方法で、社会経済的な状態あるいは年齢にかかわらず、国民のすべての階層が恩恵を受けるという利点を持っています。さらに、歯科医療と修復処置費用の節約と歯科疾患に起因するであろう労働時間の損失を補うという、う蝕予防から派生する意味のある間接的な利益もあります(44)。 

フッ化物補充剤 

 すべての個人が公共の水道水フッ化物濃度適正化の恩恵を受けているとは限らないので、最適のフッ化物を供給する他の方法が研究されました。フッ化物補充剤の使用は水道水フッ化物濃度適正化されていない地域の子供のために使うように指示されています。しかしながら、歯の形成の初期段階で長期にわたり継続して過量のフッ化物を摂取する子供は歯のフッ素症になる可能性もあるので、水道水フッ化物濃度適正化されている場合、フッ化物補充剤を使用してはいけません。 
 フッ化物濃度適正化されていない地域に住んでいる子供のための食事からのフッ物栄養補助食品の処方は、有効な(しかし信頼性は低いのですが) 水道水フッ化物濃度適正化の代替法であると長く認められてきました。しかしながら、最近では軽度な歯のフッ素症症例の増加、およびフッ化物の作用および効果についての知識が増して、 the American Dental Association Council on Scientific Affairsによって1994年に推奨されたフッ化物補充剤摂取のためのプログラムには控えめな基準設定をしています(47)。 
 これまでは全身的なフッ化物応用の最も大きな効能の期間としては生後から12あるいは13歳まで(未萌出の永久歯の石灰化作用が生じるとき)と考えられていました(48)。推奨された投与量は、子供の年齢、および水道水の中に自然にあるフッ化物濃度を基準としています。これらのガイドラインは、さらに、全身的フッ化物応用による局所的な効果(これがより重要です)と様々な供給源からのフッ化物の有効性を認めています。 
 それらは、フッ化物の補充は6か月で始まり、補充に対する年齢上限を13歳から16歳までに延ばすように勧めています(47)。さらに、水道水フッ化物濃度適正化された水以外の様々なフッ化物源からフッ化物の供給がありますので、フッ化物全身応用法をしてはいけない飲料水中のフッ化物濃度は0.7ppmから0.6ppm.に下げられました。 
 表2は、フッ化物補充のためのこれらの推奨事項を示しています。推奨された投与量がフッ化物イオンとして述べられることに注意してください。 

 
補充剤はフッ化ナトリウムとして提供されます。1mgフッ素量はフッ化ナトリウムの2.2mgから得られます。 

 出生前に胎児にフッ化物を使用しても有意義な全身的な利益をははほとんどありません。したがって、米国歯科医師会の Council on Scientific Affairsおよび the American Academy of Pediatrics Committee on Nutrition(栄養における小児科委員会の米国アカデミー)は、水および食物によって通常得られる以上の量を出生前にフッ化物の全身応用法として摂取することを勧めるにはほとんど根拠がないと信じています(49)。 

 母乳中のフッ化物の濃度は非常に低いので、水道水フッ化物濃度適正化された地域の母乳育ちの幼児がフッ化物補充剤を与えられるべきことが示唆されました。しかしながら、多くの母親が人工乳と母乳を組み合わせて哺育し、幼児に授乳の間に水を与えているかもしれないので、これには注意する必要があります。したがって、一般的には水道水フッ化物濃度適正化された地域に住む母乳育ちの幼児に対するフッ化物補充剤は推奨されません。フッ化物補充剤については、小児科医あるいは歯科医の監督の下で行われるべきです。フッ化物の効果は主に局所的であるという知識から、永久歯への局所的な接触の機会を最大限にする別の方法としてフッ化物錠剤に関心が向いています(50)。 

局所応用をするためのフッ化物の供給源 

 フッ化物洗口法、フッ化物配合歯磨き剤およびフッ化物歯面塗布は有効で、容易に学校あるいは家庭に常備して管理することができる重要な局所応用の補助的なフッ化物供給源となります。学校を基盤としたフッ化物洗口プログラムもまた有効な公衆衛生手段です。このプログラムによって、20%以上のう蝕の予防効果があると報告しています(51)。 
 さらに、う蝕を発生する危険性が高い子供および成人のために歯科医院で適用される高濃度のフッ化物溶液、ゲルおよび塗布剤も有効です。米国歯科医師会の推奨するマークの貼ってあるフッ化物製品はそれらの有効性および安全性を実証するために広範囲な臨床試験を受けています(52)。永久歯の形成期に歯のフッ素症の危険を少なくするために局所応用のための製品を飲み込まないように保護者と子供に注意する必要があります(53)。このような理由から米国歯科医師会は6歳以下の子供によるフッ化物洗口あるいは低年齢の幼児によるフッ化物配合歯みがき剤の使用を推奨していません(3)。 

食品からのフッ化物の供給 

 食事からのフッ化物の主な供給源はフッ化物濃度適正化された水です。年歳6歳未満の平均的な子供の水摂取量は1日当たり水を0.5リットル未満の摂取であり、最適にフッ化物濃度適正化された水を飲むことから1日0.5mg未満のフッ化物を摂ることになるでしょう(54)。さらに、水道水以外の飲み物(ボトル水、お茶、人工乳)および市販調理食品(例えば鶏肉製品、シーフードおよび穀物製品)と様々な食餌からフッ化物を摂取することができます(55、56)。 食物のフッ化物含有量は0.01-1.0ppm.の範囲で変動しているとみることができます。お茶は使用される茶葉の量、使用される水の中のフッ化物濃度および浸出時間によりフッ化物濃度で1-6ppmとなります(2)。ボトル水では、フッ化物含有量が大いに変動し、多くの場合低い状態です(57)、大多数の市販ボトル水のフッ化物濃度は低いのですが、飲むことによって、また、調理品、およびスープおよび飲料の調合品からのフッ化物摂取の可能性があります(58)。 
 フッ化物濃度適正化された水で加工された食品は、特に総フッ化物摂取量(特に幼児期に)を著しく増加する可能性があるので、どのようなフッ化物補給を勧める際にも、子供の食事については、フッ化物摂取量を増加させる可能性のある食品源を確認する必要があります(59)。 
 家庭用水処理システムもまた、ろ過された水のフッ化物含有量に影響するかもしれません。逆浸透システムおよび蒸留ユニットは水から著しい量のフッ化物を取り除きます(60)しかしながら、硬水軟化剤はフッ化物レベルに影響をあたえるようには思われません。水フィルタは、水からフッ化物を取り除く能力に違いがあります(61)。家庭用水処理システムを使用する人々はフッ化物含有量を監視するために、地域のあるいは州の公衆衛生部、または個人の試験所で水質検査をしてもらう必要があります。 

フッ化物の安全性 

フッ化物濃度適正化された水からの持続的な少量の摂取 

 水道水フッ化物濃度適正化に対する反対は1950年に始まり、今日でも地域によっては論争の火種になっています。住民投票、市議会公聴会、新聞キャンペーンおよび訴訟などの戦術を駆使して、引き続き水道水フッ化物濃度適正化に反対しています。 
 水道水フッ化物濃度適正化の反対者たちは、フッ化物適正化の開始以来、反対論として、つまり、証拠もないのに健康に有害な影響(癌、エイズ)を主張したり、選択の自由に対する侵害を訴えるというように、より多岐にわたる傾向にあります。癌とAIDSと水道水フッ化物濃度適正化を関連づけて、それらを強調して訴えメッセージを出せば、一般大衆への強力な影響を及ぼしますし、これまでもその影響は大きいものでした(62)。 
 反水道水フッ化物濃度適正化論者は水道水フッ化物濃度適正化についての科学的な論争があるかのように見せかけて、大いに有名になりましたが、適切なレベルでの水道水フッ化物濃度適正化によって健康上有害であるという反対者の主張には根拠がありません。 
 水道水フッ化物濃度適正化は最近の歴史において、おそらく最も徹底的に研究されてきた公衆衛生手段です。広範囲な研究によると、水道水フッ化物濃度適正化が癌、心臓病、頭蓋内の病巣、腎炎、肝硬変、アルツハイマー症およびダウン症を含むいかなる慢性病の発生率や死亡率をも増加させないことを実証しました(63)。 
 したがって、1ppmの水道水フッ化物濃度適正化はう蝕を防ぎ、これまで言われてきた健康へのいかなる悪影響とも関係していません。水由来のフッ化物の毒性については、中毒を引き起こすためには一度に非常に多量の水を摂取しなければならず、それは不可能なことなので、フッ化物中毒は起こりえません(2)。 

歯のフッ素症 

 歯のフッ素症とは歯の萌出前にエナメル質形成期に過度の全身的なフッ化物摂取に起因する歯のエナメル質の低石灰化(減形成)です。歯のフッ素症はvery mild (非常に軽度な)段階から severe(重度/高度な)段階まで程度の差があります。米国の学童に関する全国調査で、調査された子供の22.3%が何らかの歯のフッ素症を持っていることが分かりました。これらの症例のうち、94%は very mild段階か mild段階でした。 
 フッ素症例の6%だけが、 moderate(中等度の)段階 または severe段階でした(64)。mild段階の歯のフッ素症例では、チョーク様の白い斑状あるいは斑点があることを除けば、歯は高度に抗う蝕性でありました。このmild段階の歯のフッ素症の大部分は、歯の検診中にのみ見つけることが出来ますが、審美的には不快なものではありません。Severe 段階の歯のフッ素症は褐色斑のある歯となり、井戸水のように天然の高濃度のフッ化物を含む水を使う田舎の地域でよく見られます。 
 近年、様々な全身的なフッ化物の供給源からより広範にフッ化物摂取の可能性があり、mild 段階の歯のフッ素症罹患率が増加しています(65)。これは次のもののような要因に起因しています 
・幼児期にフッ化物配合歯磨き剤を飲み込み。 
・フッ化物補充剤の誤用。 
・幼児の調合乳、特にフッ化物濃度適正化された水で調合された人工乳の長期使用。 
・フッ化物濃度適正化地域で作られて、しかも非フッ化物濃度適正化地域とフッ化物濃度適正化された地域の人々によって摂取された食糧および飲料からのフッ化物の拡散(あるいはハロー効果) (66、67) 
 水道水フッ化物濃度適正化は歯のフッ素症への主な原因ではないと考えられています(68)。mild 段階の歯のフッ素症は主に審美的な問題ですが、大衆の不安心理の結果としてすべてのフッ化物使用に反対するかもしれないという懸念材料となります(50)。 

急性症状を来す高濃度のフッ化物摂取 

 過量に摂取されると、ほとんどの元素がそうであるように、フッ化物も毒性をもたらします。したがって、高濃度のフッ化物製品は注意して使用する必要があります。急性フッ化物中毒の危険性を防ぐために、小さな子供の手に届かないようにフッ化物製品を保管するべきです。 
 大人によって監視されていない子供は過度のフッ化物摂取を避けるために、米国歯科医師会は、一度に処方されるフッ化ナトリウムが264mg(120mgのフッ素)以上にならないように勧めています(52)。 
 フッ化物配合歯磨き剤はほぼ40年間も市場に出回っています。アメリカで現在売られている歯磨き剤はほとんどすべてフッ化物配合製品です(3)。フッ化物配合歯磨き剤摂取によって引き起こされた急性中毒に関する報告はありません。けれども、6歳未満の子供には、歯ブラシの毛の部分にフッ化物量をエンドウ豆大以上にするべきではありませんし、練り歯磨剤(または洗口剤またはゲル剤)は歯のフッ素症から守るために飲み込まないで、すべて吐きだすべきです。米国歯科医師会は、歯磨きのメーカーに「6歳未満の子供にはエンドウ豆大の量だけ(練り歯磨き剤)使用する」という注意書きをつけるように要求しています。(水道水のフロリデーションをしている米国では)フッ化物洗口法は6歳未満の子供には推奨されません(3)。 

結論 

 至適な量のフッ化物が供給される場合には、フッ化物はすべての年齢層で歯の健康に大きく寄与します。公共水道水フッ化物濃度適正化は現存する歯科公衆衛生手段として最も有効な方法として90以上の専門的保健機関に認められています(3、69)。しかしながら、いまだ、米国人口のおよそ半分は、水道水フッ 化物濃度適正化とフッ化物製品からの恩恵を十分には享受していません。そのために、まだ12-17歳の人の67%が(70)また、18歳以上の人の94%(71)が永久歯う蝕に罹患しています。栄養学専門家は、特に子供と思春期青年に、常日頃から全身的、局所的なフッ化物の適切な使用を促進し見守るために助言と教育活動の一部をあてることを考える必要があります。この目的に向かって、栄養学の専門家、歯科衛生士、歯科医師の間で協力関係となるシステムの構築が最善の口腔の健康を推進する力を強化するために必要であります。米国栄養士会は、重要な健康増進手段として水道水フッ化物濃度適正化を含めて、全身的および局所的なフッ化物を使用するように再び勧奨します。 

アメリカ栄養士会雑誌2000;100:1208-1213.

カナダ歯科医師会
フロリデーション(水道水フッ化物濃度適正化)に関するステートメント

(2000年)

 カナダ歯科医師会は、すべての年齢層に対する、安全で、経済的かつ効果的なむし歯予防方法として地域水道水のフロリデーションを支持することを再度是認します。地域の水道水中のフッ化物濃度はモニターされ、適正濃度に調整して過度のフッ化物濃度にならないようにすべきです。

国際歯科連盟(FDI)
フロリデーション(水道水フッ化物濃度適正化)決議

第52回年次回総会にて採択(1964年)

1. 歯科齲蝕症(むし歯)は全身的健康を阻害し、疼痛を誘発して、全世界の大多数が罹患する疾病である。 
2. WHO、各国政府及び科学専門諸団体より召集された専門委員会によって、むし歯抑制手段としてのフロリデーションの安全性、効果及び実用性に関する科学的根拠が検討され、承認された。 
3. 過去30年間に亘る経年的観察研究の結果、上水道のフロリデーションがむし歯抑制に対して、 最も効果的かつ、廉価な方法であることが確認された。従って、以下の如く決議する。 
 フロリデーションはむし歯の発生を安全かつ経済的に抑制する手段として、現状に おいては最も有効な公衆衛生学的施策であることをすべての関係当局に推薦するべきことを決議する。

国際歯科連盟(FDI)の新たな声明文 2001年 
フッ化物 とむし歯

はじめに 
 50年以上にわたる世界中の広範な調査研究では、一貫してむし歯予防に対するフッ化物の安全性と効果を示しています。フッ化物の使用と安全性の科学的根拠は、数え切れないほど多くの科学者、専門家グループ、政府機関などに認められています。フッ化物の使用によって、むし歯の発生率と有病率が減少し、多数の人々の生活の質の改善につながっています。どのようにしてフッ化物がむし歯を防ぐか(フッ化物の作用機序)むし歯予防におけるフッ化物の役割を調べた初期の調査では、その作用機序を水道水中のフッ化物の存在と濃度に結びつけたものでした。フッ化物の効果は、発生時にエナメル質を強化する全身的効果と関係があると仮定されていました。現在では、口腔内に適切な濃度のフッ化物が絶え間なく供給されていることが最も重要な因子であることが明らかにされています。低濃度のフッ化物が存在することでエナメル質の脱灰を抑制し、再石灰化を促進しているのです。これらの発見は予防的、治療的手段としてフッ化物利用を考える上でとても重要です。 フッ化物の局所的応用、あるいは口腔内フッ化物の適正濃度を持続させるあらゆる手段がむし歯予防上、この上なく重要であることが確認されています。 

フッ化物の供給 
フロリデーション(水道水フッ化物濃度適正化) 

 水道水からのフッ化物供給は、給水系が整備されている地域では、むし歯予防とむし歯治療のもっとも効果的な公的な健康増進の手段であります。水は誰もが必要でかつ使用する食事成分の一つであり、それで地域の全ての人々に利益をもたらすからです。この方法の運用上の唯一の制約としては、信頼でき、かつ調整可能な給水路があることです。つまり、常に集中管理された水道があることを意味しています。利用人口や地理的区域に対して水道水中の最適フッ化物濃度レベルを決定するために、他の供給源からのフッ化物の利用を明らかにする必要があります。推奨される水道水中のフッ化物濃度は、水の消費量によります。それは気候により影響をうけます。また、地域ごとの文化や食習慣などもまた加味されるべきでしょう。 

食塩フッ化物濃度調整(フッ素化食塩) 

 フッ素化食塩からのフッ化物の摂取は、水道水からのフッ化物供給が適していない地域では望ましい方法です。フッ素化食塩による、むし歯減少の効果を示唆する研究も行われています。ある特定の国と地理的区域で活用されるフッ素化食塩の製造にあたっては、製品の品質管理のために強力な技術的援助をもって集中管理されるべきです。食塩のフッ化物濃度は食塩の摂取量の研究とその他の供給源からのフッ化物の利用度に基づいて決められなければなりません。フッ化物濃度は食塩の包装に明記されることが必要です。 

ミルクフッ化物濃度調整(フッ素化ミルク) 

 フッ素化ミルクは学校保健プログラムとして特に学童へのフッ化物供給源として使われており、その効果は多くの研究により示されています。しかしながら、公衆衛生手段としては、制約があります。 

フッ化物配合歯磨き剤 

 現在のところ使用されているフッ化物の供給源のうちで、フッ化物配合歯磨き剤は最も内容豊富な調査対象となってきました。十分にコントロールされた広範な研究が行われ、その大半の研究では有意なむし歯の減少によって口腔保健の大幅な改善をもたらすことが証明されてきました。したがって、フッ化物配合歯磨き剤は最も重要な公衆衛生手段の一つであり、この使用を広める努力が必要であります。幼児がフッ化物配合歯磨剤を過量に飲み込むと非常に軽度の歯のフッ素症(エナメル質白斑)の増加をきたすことになるかもしれません。この確率を減らすために、幼児のフッ化物配合歯磨剤の飲み込みを最小限に抑えることが望ましいのです。国によっては、特別に小児用として低濃度のフッ化物配合歯磨剤(550ppmF)が利用されています。これのむし歯抑制効果の証拠としては、まちまちで一貫した成績が得られていません。フッ化物配合歯磨剤をすくなくとも1日2回使い、歯磨き後には少量の水で口を洗口のが望ましいといわれています。歯磨剤の容器にはフッ化物濃度と6歳未満児では歯磨きの際には保護者が監視して少量の(エンドウマメサイズの)歯磨剤を使うべきであることを明記すべきであります。 

フッ化物補助剤 

 フッ素錠剤はむし歯リスクの高い個別の患者に推奨され、他のフッ化物供給源の利用がない場合に地域のリスクの高い集団に一般的に使うように考えられています。フッ素錠剤のむし歯予防効果は他のフッ化物の供給方法ほど明らかに証明されていません。フッ化物素の局所効果に重きを置いた考え方から、フッ化物補助剤は飲み込む前に口の中でなめて噛んで溶かすのがよいと奨められています。また、もしも補助剤が不適切に 使われるならば、歯のフッ素症のリスクを高める危険性があります。投与量については、地域のフッ化物利用、特に水道水からのフッ化物供給量を考慮するべきであります。投与方式についても、可能なところでは、考慮されることが必要です。フッ化物投与量については国によっては多少の違いがありますが、推奨量が決められています。それらは他のフッ化物供給源に照らしあわせて、注意深く管理され適切に更新されるべきであります。 

フッ化物洗口 

 リスクのある個々人や集団に対するフッ化物洗口は効果的な手段である。洗口は毎日法、あるいは地域の必要性に応じて用法口授される間隔で行われます。フッ化物洗口は6歳以下の子供には勧められません*。市販のフッ化物洗口剤は個人利用を意図したものでありますが、効果的であります。市販フッ化物洗口剤は個々人の特殊なニーズに応じて使用されるべきでしょう。 
*(注):わが国においては、永久歯の萌出途上にあたる4、5、6歳児に対するフッ化物洗口が実施されています。フッ化物洗口液の飲み込み量の調査によって、安全性が確認されています。また、わが国は地域レベルで飲料水のフッ化物濃度が低く、適切なフッ化物利用が行われていないという背景を勘案しなければなりません。 

<参考文献> 
日本口腔衛生学会フッ化物応用研究委員会;就学前からのフッ化物洗口法に関する見解、 日本口腔衛生学会雑誌、49:1-3、1996. 

 0.05%フッ化ナトリウム7mlの1分間洗口による口腔内フッ素残留量は、3歳で0.25mg、5歳で0.16mgと算出されています。これはむし歯予防のための適正フッ化物投与量(低フッ化物地区)である0.5mgF/日(3-6歳児)を下回り、安全性は保証されています。総合的な判断から、日本口腔衛生学会では、4、5歳からのフッ化物洗口を推奨しています。 

専門的なフッ化物ゲルの応用 

 専門的に応用されるフッ素ゲルは、むし歯に対するリスクをもつ個々人に対して適応されます。たいていの場合高濃度ですので、注意深い操作が必要とされます。 

フッ化物バーニッシュ 

 フッ化物バーニッシュはむし歯に対するリスクをもつ個々人に対して、あるいは歯科的、医科的治療のためにリスクが増加している患者に対して適応されます。

重複するフッ化物供給源からのフッ化物供給 

 フッ化物は世界中のいたるところに自然のかたちで存在しています。フッ化物はあらゆる食べ物や水の中にいろいろな濃度で存在しています。そのためすべての人がなにがしかのフッ化物を摂取しています。フッ化物は食べ物や飲み物、適正なフッ化物濃度に調整された水、歯磨剤、洗口剤などを通じて利用できます。これは大変むし歯予防の点で有益なことであります。不適切に使えば、軽度な白斑/歯のフッ素症の増加にもつながることもあります。このためにフッ化物の利用には、調和的のとれた使用が望ましいのです。あるフッ化物利用を行うに際しては、すべてのフッ化物供給源からのフッ化物の利用が考慮される必要があります。 

健康リスク評価 

 もしフッ化物が適正濃度で適切に使用されたとするならば、膨大な量の科学的検証からもフッ化物がむし歯予防にとって安全かつ効果的であることは明らかです。しかしながら、歯の萌出前の形成期間中に過剰なフッ化物を摂取すれば、エナメル質白斑/歯のフッ素症の誘因となります。かつて、むし歯予防に用いられたフッ化物レベルにおいては、白斑/歯のフッ素症はわずかの人に見られただけでした。またその変化は非常に軽度で、主として審美上の問題でした。最近の研究でも、大衆は一般的に望ましくないとされる歯のささいな変化である審美的な面に気をとめていなし、あるいは見つけられてもいないと報告されています。供給されるフッ化物の摂取レベルが注意深く管理されれば、フッ化物は口腔保健を維持するためにもっとも重要な公衆衛生手段と考えられます。 

(東北大学予防歯科 志村匡代先生訳 日F会議ホームページから転載)

CDC(アメリカ疫病予防センター)声明 2002

2002.2.22

 現在、水道水フッ化物濃度適正化(水道水フロリデーション)は、アメリカの総人口の約3分の2に達している。 

 今日のCDCが発表した文献では、現在、アメリカの給水人口の約3分の2がフッ化物濃度適正化された水道を供給していると報告している。 「アメリカ合衆国の水道水フッ化物濃度適正化(水道水フロリデーション)の実施状況(2000年度版)」では、州ごとの水道水フッ化物濃度適正化普及状況の最新情報を提供している。
 1992年から2000年までにフッ素化された水道水を供給している人口は、62.6%から65.8%に増加し、約1億6千2百万人に達している。 

 地球上に天然に存在しているフッ素は、生涯を通じてむし歯予防に効果があることが知られている。過去数十年以上も水道水フッ化物濃度適正化(水道水フロリデーション)はむし歯を著しく減少させるのに最も重要な役割を果たしており、CDCによってアメリカの20世紀10大公衆衛生事業の一つと認識されている。しかし、むし歯は18歳のむし歯罹患率が80%であり、現在でもなお最も蔓延する慢性疾患である。 

 最近の水道水フッ化物濃度適正化のむし歯予防率は18から40%と報告されており、1970年代では17歳のカリエスフリー(むし歯のない)の割合が6%であったのが1990年代では22%に増加した。 

 むし歯を減少させるのに水道水フッ化物濃度適正化(水道水フロリデーション)が最も貢献していることを著名に報告しているのは2000年3月に出版された米国公衆衛生長官の口腔保健の報告書初版である。 
(http://www.surgeongeneral.gov/library/oralhealth/

 また、米国公衆衛生長官であるデビット・サッチャーが2001年12月に「水道水フッ化物濃度適正化(水道水フロリデーション)は、アメリカ国民のむし歯に関連する痛み・苦痛を減らし、むし歯の治療により学校や会社を休んだり、お金を費やしたりすることを減らすことにより、生活の質を改善するのに役立っている」と演説したことがその報告書を確固たるものにしている。 
(http://www.cdc.gov/nccdphp/oh/fl-surgeon2001.html)

CDC(アメリカ疫病予防センター)声明 2006

http://www.cdc.gov/fluoridation/safety/nrc_report.htm
CDC 
Community Water Fluoridation 
CDC Statement on the 2006 National Research Council (NRC) Report on Fluoride in Drinking Water

CDCは、適切な給水システム地域に居住する住民にとって、むし歯予防のために安全、有効で、経済的な方法として、地域の水道水フロリデーションを推奨しています。私たちが自らの健康のために摂取する数多くのビタミンやミネラルと同様に、フッ化物は適量に摂取するべきです。水中のフッ化物の安全性と有効性に関する現在までの包括的なレビューは、水道水フロリデーションが安全で、効果的であると結論づけています。フッ化物は、極微量に、多くの水に天然の形で存在しており、米国の公共水系において1億7万人以上の人々がむし歯予防のために至適レベル(0.7-1.2 ppm)に調整された水の恩恵を受けています。 

 (米国の)幾つかの水系では、至適濃度よりもかなり高いレベルの天然由来のフッ化物濃度が存在しています。2006年3月22日に公表された米国研究評議会(NRC)によるFluoride in Drinking Water: A Scientific Review of EPA’s Standardsという最近の報告書では、飲料水中に安全な最高のフッ化物濃度を記載しています。この報告書は、天然由来の高いレベルでの飲料水中フッ化物の安全性について記されていますが、むし歯予防のための低レベルのフッ化物使用については問題に取り上げていません。 

 この最新の報告書は、フッ化物を含む飲料水中の全ての規制汚染物質について、権限を有する政府機関である米国環境保護局(EPA)によって、通常的にかつ定期的に見直す部分として求められました。議会権限での使命の一部分として、国民の健康を守るためにEPAは安全な飲料水の基準を設定しています。飲料水は、多くのミネラルや化合物、また微生物を含有する可能性があり、その中の幾つかの項目は、EPAの規制下で“汚染物”とみなされるものがあります。現在、Safe Drinking Water Act(米国安全飲料水法)には96種の汚染物が規制されています;なお、フッ化物は天然由来のミネラルに含まれます。 
 フッ化物のレビューの目的は、小児やその他の人々の健康を守るために、飲料水中に最大限許容されるフッ化物濃度について、EPAにより設定された現在のガイドラインの適正を決定することでした。NRCの委員会は、現在の飲料水中の4ppmというEPAの第一次上限濃度目標値(MCLG)が、天然の高いフッ化物濃度に関連する健康リスクから国民を守るため、(そのMCLGを)低く設定すべきであることを見出しました。この報告書は、MCLGの適切な水準を決定するために、リスクアセスメントについてEPAが更新するように勧告しました。 
 NRCの委員会は、飲料水中のフッ化物に関連した可能性のある多くの健康への影響を評価しました。NRCは、飲料水中の高濃度フッ化物の規制基準を改訂する際に、生後から8歳までに高濃度のフッ化物暴露で発現する重度の歯のフッ素症、骨折リスクの可能性、それに一生を通じて高濃度フッ化物を摂取した場合に生じる重度な骨のフッ素症の3つの有害性について結論づけました。 
 この報告書は、2mg/L(ppm)以上の天然の高濃度フッ化物地域で居住する住民にとって重要です。米国人口の約0.5 %はこの(2ppmFの)地域に居住しています。また、約22万人のアメリカ人が、4mg/Lあるいはそれ以上のフッ化物濃度の給水を公共水系から受けているとEPAは推定しています。この委員会では、1ppmの水を飲用する人々に比べ、一生涯にわたり高いフッ化物濃度を飲用すれば骨折のリスクを高める可能性があると結論づけました。さらに、米国の140万人は、天然由来の2.0-3.9 mg/Lの範囲のフッ化物濃度給水を飲用しています。この委員会では、2mg/Lを上回るフッ化物レベルの水は8歳未満児にエナメル質の着色や小凹窩のある重度の歯のフッ素症のリスクを高めることを認めました。2mg/Lを上回る地域では、8歳未満児の親と保護者は子どもに低いフッ化物濃度の飲料水を与えるようにとCDCは推奨しています。2mg/L(ppm)未満のレベルでは、重度の歯のフッ素症の発現は極めて低い(ほとんどゼロに近い)ことを認めました。 
 NRC報告書の所見は、水道水フロリデーションに用いるフッ化物濃度レベル(0.7-1.2ppmF)が安全で、健康であるというCDCのアセスメントと(矛盾がなく)首尾一貫しています。CDCは、さらに継続して最新の科学的な文献をレビューし、積極的に国家施策である水道水フロリデーションの質的な保証プログラムを堅持します。CDCは、フッ化物研究を、また公衆施策への効果を推進します。むし歯予防手段としての水道水フロリデーションが、安全でかつ効果的であるというCDCの勧告は存続しています。水道水フロリデーションは、現在実施のフロリデーション地域で(今後も)継続され、かつフロリデーション未実施の地域では拡大されるべきです。 
 CDCは既に、中等度ならびに重度の歯のフッ素症を防ぐための幾つかのステップを勧告しています。それらの勧告は、2001年8月17日のMMWRレポート:Recommendations for Using Fluoride to Prevent and Control Dental Caries in the United States(米国におけるむし歯予防とコントロールのためのフッ化物予防の勧告)で示され、http://www.cdc.gov/OralHealth/waterfluoridation/guidelines/index.htm.でも見ることができます。さらに、第一次飲用水源が2mg/Lを上回る天然水であれば、8歳未満の子どもたちのために代替水源の使用について、以下を含めて勧告しています。 

・2歳未満児のフッ化物配合歯磨剤の使用については専門家のアドバイスを受けること 
・6歳未満児のフッ化物配合歯磨剤の使用はpea-sized(えんどう豆の1粒大)の量を用い、監視下で歯磨きすること 
・フッ化物サプリメント(錠、液)の処方をきちんと行うこと 
・フッ化物洗口を適切に行うこと 

飲料水のフッ化物濃度をお知りになりたい消費者は、地方の水道設備、あるいは地方、郡、州の保健部に尋ねることができます。現在では、32の州がCDCウェブサイトのMy Water’s Fluorideを通じて、公共利用できる水系に関する情報を提供しています。 

Dated last reviewed: September 26, 2007 
Dated last updated: August 9, 2007 
Content source: Division of Oral Health, National Center for Chronic Disease Prevention and Health