代用甘味料
北海道大学大学院歯学研究科口腔健康科学講座 本多丘人助教授
まずむし歯とは何か
左図のように、むし歯は歯の成分が酸により溶け出し(脱灰)歯に穴があく病気ですが、「脱灰」よりも「再石灰化」が強ければむし歯にはなりません。
遊離糖質(砂糖など)の摂取と歯垢PHの変化
下図のように、歯垢のpHがおよそ5.5以下だと歯は脱灰(溶解)されます。むし歯の発生は、歯垢のpHを下げる甘味飲食物の摂取頻度が問題です。
むし歯の発生は、歯垢のpHを下げる甘味飲食物の摂取頻度が問題です。
代用甘味料とは
糖質には、砂糖(ショ糖)、ブドウ糖、果糖、乳糖や麦芽糖などがあり、摂取のしかたによってはむし歯の原因になりやすい物質です。また、カロリーが高いので肥満・糖尿病・高血圧・痛風などの生活習慣病の原因ともなります。基本的には「節度ある飲食」の習慣が可能ならこれらの病気の予防につながります。
一方その対策の一つとして、近年、さまざまな甘味物質が開発され、使われるようになってきました。低カロリーでむし歯や生活習慣病の原因にならず、しかも味質の良い甘味料が求められてきたわけです。これが「代用甘味料」の登場です。
現在使われている代用甘味料の分類と種類
糖質系甘味料 | 糖類 | パラチノース カップリングシュガー |
糖アルコール | ソルビトール キシリトール マルチトール マンニトール エリスリトール 還元パラチノース | |
非糖質系甘味料 | 人工甘味料 | スクラロース (糖質に含める考え方もある) アスパルテーム アセスルファムK サッカリン |
天然甘味料 | ステビア (糖転移ステビアとしての利用が多い) |
これらの甘味料はすべてむし歯の原因になりません。上記のほか、近年では糖類の一種である 「トレハロース」も使われています。
各甘味料についてちょっと説明しましょう
トレハロース | ブドウ糖2分子が還元末端同士で結合した2糖類。天然にも存在するが、トウモロコシデンプンなどから工業的に製造される。甘味は砂糖の45%。家庭用甘味料として、また、多くの製品に使われている。「むし歯の原因になりにくい」とされている |
パラチノース | 砂糖(ショ糖)と同様に、ブドウ糖と果糖とが結合した2糖類(ブドウ糖と果糖との結合のしかたがショ糖とは異なる)。天然にも存在するが、ショ糖から糖転移酵素を利用して工業的につくられる。甘味は砂糖の40%程度。むし歯の原因にならない(歯垢のpHを低下させない)。 |
カップリングシュガー | 砂糖(ショ糖)とにブドウ糖を結合させたオリゴ糖。天然にも存在するが、ショ糖から糖転移酵素を利用して工業的につくられる。甘味は砂糖の半分程度。 |
ソルビトール キシリトール マンニトール エリスリトール マルチトール(還元麦芽糖) 還元パラチノース(パラチニット) | これらはすべて 「糖アルコール」 の仲間です。いずれも単独では むし歯 の原因になることはありません。1997年に厚生労働省がキシリトールを「食品添加物(甘味料)」として認可してから、CMの効果もあり、キシリトールが注目されています。しかし実際にはキシリトールばかりが(むし歯予防に)優れているわけではありません。 |
サッカリン(サッカリンナトリウム) | 通常はサッカリンナトリウムとして用いられる。甘味度は砂糖の500倍程度。日本では食品ごとの使用量が制限されている。 |
アスパルテーム | アスパラギン酸とフェニルアラニンの化合物。甘味度は砂糖の500倍程度。ダイエット甘味料としても市販されている。 |
スクラロース | スクロースの水酸基3つを塩素に置きかえた構造をした人工甘味料。甘味度は砂糖の600倍程度。日本では1999年に食品添加物(甘味料)として認可され、使用基準が定められている |
アセスルファムK | 甘味度は砂糖の200倍程度。日本では1999年に食品添加物(甘味料)として認可され、使用基準が定められている |
ステビア抽出物 | 南米原産のキク科植物から抽出してつくられる。甘味度は砂糖の300倍程度。 |
これらの非糖質系甘味料はむし歯の原因になりません。
代用甘味料だけの食品はむし歯の原因にならない
これまで説明してきた「代用甘味料」は、いくら大量に、ひんぱんに摂取してもむし歯の原因になることはありません。
歯垢を形成している細菌のエネルギー源にならず、歯垢内で酸を生成しないからです。ですから、代用甘味料だけを使用した食品であれば、むし歯の原因になることはありません。
代用甘味料を使用した食品でも、砂糖などと同時に使われている場合にはむし歯の原因になる場合もあります
たとえば、キシリトール自体がむし歯の原因になることは決してありませんが「キシリトール入り」 「キシリトール配合」「むし歯にならないキシリトール使用」のような紛らわしい表示には注意する必要があります。
キシリトールを使っていても、同時に砂糖などを使っているとむし歯の原因になる場合があるからです。
このような場合、ひとつひとつの食品について、歯垢のpHを歯が脱灰される程度(pH5.5)まで下げることがないかを調べてみないと、本当にむし歯の原因にならないと断言することはできません。
シュガーレス=糖類ゼロ、ノンカロリー=カロリーゼロかな?
最近、シュガーレス、ノンシュガー、甘さひかえめなどと表示された食品を目にすることが多くなりました。これらの表示については以下のような決まりがあります。
糖類の表示
シュガーレス | 無、ゼロ、ノン などの表示 | 食品100g当たり糖類(単糖および二糖)が0.5g以下。ただし糖アルコールを除く。 |
低糖 | 低、軽、ひかえめ、低減、カット、オフ などの表示 | 食品100g当たり糖類が5g以下(飲料では2.5g以下) |
熱量(カロリー)の表示
ノンカロリー | 無、ゼロ、ノン などの表示 | 食品100g当たり 5kcal以下 |
低カロリー | 低、軽、ひかえめ、低減、カット、オフ などの表示 | 食品100g当たり40kcal以下(飲料では20kcal以下) |
結局、ある食品がむし歯の原因になるかどうかはその食品を摂取した時に歯垢細菌が酸を産生して歯垢のpHをどれだけ下げるかによって決まります。
歯に信頼のマーク
食品ごとに試験を行い、いくら食べても(飲んでも)むし歯の原因にならない食品は、厚生労働省や日本トゥースフレンドリー協会が「お墨付き」を与えています。
キシリトールについて
キシリトールは欧米では1975年ごろから普及していますが、日本では1997年になって厚生労働省が「食品添加物」としてその使用を許可しました。
キシリトールについては、食後にキシリトールガムをかむ、キシリトールタブレットをしゃぶるなど、10数例の臨床研究があります。
いずれの研究も、研究期間1-3年程度で、むし歯の抑制率は30-80%程度と、その効果は高いとされています。キシリトールだけでなく、他の代用甘味料にも似たような効果が期待できますが、臨床試験が困難なため、行われていないのが現状です。
100%キシリトールでの予防には年間9-18万円の費用に
代用甘味料だけを使えば、むし歯の原因になることはありません。
しかしここで述べた多くの「代用甘味料」は食味や性質(熱安定性、酸性度による安定性、保存性など)によって、組み合わされて、あるいはむし歯の原因になる糖質(ショ糖、ブドウ糖、果糖)と同時に使われることがあります。
代用甘味料の普及が近年のむし歯の減少に役立ってきたことは明らかですが、実際に何%むし歯の減少に貢献したかは不明です。飲食に関わる要素は複雑であり、簡単には計算ができないからです。
また、100%キシリトールによるむし歯予防にかかる費用は一人当たり年間9-18万円と計算されています。
保健専門機関の評価
●食事とむし歯の関連における根拠の強さ WHO 2003年
根拠 | むし歯減少 | 関連なし | むし歯増加 |
確実な根拠 | フッ化物利用 (局所および全身) | デンプン摂取 (一部除く) | 遊離糖質量 遊離糖質頻度 |
おそらく確実な根拠 | 硬いチーズ 砂糖を含有しないガム | 新鮮な果物 | |
可能性がある根拠 | キシリトール 牛乳 食物繊維 | 低栄養 | |
不十分な根拠 | 新鮮な果物 | ドライフルーツ |
代用甘味料のまとめ
基本は「健康でありたい」と思うこと、むし歯予防もそのひとつです。
むし歯の予防とともに、その他の生活習慣病にも注意を払わなければなりません。
歯を強くするフッ素の利用とともに、食習慣の見直しもしてみてはいかがでしょうか。
食品の摂取量だけでなく、摂取頻度に注意することが重要です。
食品の成分表示を見ることも忘れずに。